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東京新聞3月9日記事 ”新旧「似てる」”

先日記事で3月9日中日新聞記事”新旧の内部構造「似てる」新国立案”の冒頭を紹介した。これに関して、同日に題名は違うが東京新聞でも同趣旨の記事が「森本智之」記者の署名で出ていた。こちらが元ネタと思われるが、聖火台問題がクローズアップされている時期に敢えて出して来て、いよいよ同記者も流用問題を本命として動き出したと云うことだろうか。

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この記事で上図の赤枠にした箇所を中心に考察してみる。
(1)旧案データ入手
<今回、隈さんと組んだ梓設計、大成建設はともに旧案でも設計、施工業者として携わり、詳細には公開されていなかった旧案のデータを知る立場にあった。>
著作権問題では一般的に、まず「元になった作品を知っていたか?」或いは「知りうる立場にあったか?」と云うことが論点になる場合が多い。今回は詳細情報を知り得る立場だった。これは基礎的事実として非常に重要。

(2)著作権主張
<梓設計など四社で共同企業体(JV)を組んで旧案の設計に当たったある設計会社の幹部は「外観も内部構造も設計図面に描かれた内容はすべて知的財産になる。図面を描いたのはわれわれ設計JVだが、それはハディドさんのデザインを基にしている。ハディドさんにも当然、著作権を主張する権利はある」と話す。>
→この部分も基本的争点になるが、同幹部は「ZHA側も著作権を主張する権利はある」としている。後はもし裁判になった場合、主張が実際に認められるかどうかになる。

(3)弁護士の見解
著作権に詳しい早瀬久雄弁護士は「建築物に著作権が認められるにはハードルがあり芸術性や創造性がポイントになる。例えば、エッフェル塔凱旋門(がいせんもん)などは認められる一例で、一般の住宅やオフィスビルではほぼ認められない」と説明。今回のような柱や通路の配置は「当然、著作権の対象にはなり得るが、実際に認められるかどうかは難しいのではないか。外観のデザインなどと異なり、誰がやっても同じになる部分はあるだろう」と話す。>
→この見解は一見もっとものように思えてしまう。しかし、当ブログ2月29日記事で紹介した日経デザイン記事では別の弁護士が以下のように「著作権侵害と判断される可能性はある」と述べている。
<福井弁護士は、今回の設計図面の類似について「(現在公表されているものだけではなく)より詳細な画像を比較する必要があるが、一見して両デザインはかなりの細部まで共通して見える。この種の事案での判例・学説は揺れており微妙なケースとなるが、いずれにしても今回は裁判所が著作権侵害と判断する可能性はある」との見解だ。>
いずれの見解にせよ、当ブログ同記事で書いたように実際は「二つの論点が一緒になっている」ことに注意が必要。
 ①デザインはかなりの細部まで共通して見える→パクリ(流用)かどうか?
 ②判例・学説は微妙だが、裁判所が侵害判断する可能性はある→法的判断はどうか?
①について、森本記者記事の弁護士は「誰がやっても同じになる部分はあるだろう」と言っているが、日経デザイン記事の弁護士は「一見して両デザインはかなりの細部まで共通して見える」としている。
②の法的に著作権侵害に当たるかどうかは、森本記者記事では「実際に認められるかどうかは難しいのではないか」、日経デザイン記事は「微妙だが可能性はある」となっている。
弁護士によって見解が分かれているが、①については少なくとも当方の技術者としての目から見ると明らかに「流用有り」。そして当ブログ1月2日記事や、伊東氏・森山氏の図や見解などを見て頂けば、大多数の方は内部構造に関して「偶然でここまで同じになることはないだろう」と感じるのではないか。
槙氏のように「分らない」と言う人はいると思う。しかし、以前から述べてきているようにCADデータ流用も確実と思われるので、裁判になれば双方にデータ提出を要請して比較可能(日経デザイン記事の弁護士も「より詳細な画像比較」と言っている)。しかも(1)項で書いたように、A案関係者は容易にZHA案データを入手できる立場にあった。JSCが「旧計画を最大限活用する意向」だったことなども含めれば、裁判所が「流用有り」と認定する可能性は充分あると思われる。そうなれば隈氏の全否定が否定されることになる。実質的施主である政府の対応も問われる。

(4)森本記者スタンス
署名記事で内容も踏み込んではいるが、日経デザイン記事と比較して弁護士の見解が突込み不足と思えるなど、記事のつくりからすると流用問題に関して森本記者は未だ慎重な印象を受ける。もしかすると東京新聞ということで、東京にとって重要な五輪への影響を考えているのかも知れない。だが同記者は著書で「本当のことを知りたい」と書いている。その通りにやって真実を知らせる方が、結果的に良い流れを生むのではないか。逆に今の混迷は真相を知る関係者が実態を隠ぺいし、マスコミがそれを解明出来ていないことが影響している。
同著書の題名は「新国立競技場問題の真実 無責任国家・日本の縮図」となっている。新国立競技場建設にまつわる問題は多々あるが、現在は新コンペでの「流用隠蔽」という深刻な問題があり、それを否定し続ける建築大家がいる。更に同記者も記事にしていた審査仮採点問題は審査員自体が疑惑を述べている。審査全体として「官製談合」という問題にもなる。冒頭掲載記事でも「核心」と付いているが、これら核心問題を追求しなければ「無責任国家」を助長しているのは「無責任マスコミと記者」になってしまう。同記者には期待しているので厳しいことを書いたが、是非初心貫徹して「本当のこと」を明るみに出して頂きたい。
また、やはり専門家ではないので「流用」を判定しにくいということなら、最初に会って感銘を受けたという槙氏の見解を取材して頂きたい。そして槙氏は、「I'm not sure」などと煙に巻かないで、熱心な記者が確信を持って記事を書けるように「本当のこと」を伝えてあげて頂きたいと思う。

以上