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旧計画再検証8 「アーチタイ見積りは1,000億円?」

当ブログでは旧計画が「建てられない構造設計」になっていたのではないかという見方を述べてきている。その最たるものが「アーチタイ」で、着工可能な設計が出来ていたか疑問視してきた。
関連して2015年1月のゼネコン第1回見積りは、「実施設計」ではなく「基本設計」段階の仕様で行われ、基本設計後に追加された「アーチタイ」の見積りは含まれていないのではないかという見方をしている。

それを裏付けるような資料が見つかった。非営利シンクタンク構想日本」代表の「加藤秀樹」氏による記事。
 <7月7日、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下JSC)は開閉式屋根と可動式観客席の建設を先送りし(合わせて建設費260億円削減)、2520億円を「目標工事費」と設定、今年10月に着工し、2019年5月に完成させると発表した。
基本設計より900億円程増えたのは資材や人件費の上昇などによるとしているが、先送り分(約500億円)を含めて1100億円以上の費用増加の説明にはなっていない。なお、今回の「目標工事費」にはキールアーチの地下基礎部分の費用が含まれておらずこれを含めると4000億円ほどにもなるとの見方もある。>

加藤氏は元大蔵官僚で、「構想日本」はネットによると<2002年に行政改革を目的として「事業仕分け」を発案し、始めた民間シンクタンク>とのこと。事業仕分け民主党政権時代に有名になったが、wikiによると政権交代前にも<2008年8月には、自民党が「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」で国の事業仕分け(政策棚卸し)に着手した>となっており、与野党問わず、更には地方自治体でも導入されている。よって行政や公共事業に詳しい加藤氏が独自の情報網を持っていたとしても不思議ではなく、上記記事も信憑性を持ち得る。しかも、総理が白紙見直しを発表した7月17日より前の7月16日付になっていて、それ以前から情報を入手していたことになる。

ただ、これだけでは弱いと思われる方がおられるかも知れないが、記事中の「4000億円」という驚くべき数字を森元総理と舛添都知事と云うキーマン両氏がもっと前に出していた。6月9日朝日新聞掲載のインタビュー記事。
<2020年東京五輪の主会場となる新国立競技場の建築計画が、費用と工期をめぐって迷走している。なぜこんな事態になり、この先どうすればいいのか。渦中にいる主役たちが語った。>

記事の中から3名の方々の総工費に関する発言を抜粋。
----各氏発言抜粋開始----
①森元総理…やはり国立は、スポーツを大事にする日本という国を象徴する建物である必要がある。3、4千億円かかっても立派なものを造る。それだけのプライドが日本にあっていいと思う。
②槙文彦氏…仮に違約金を払うことになったとしても、今の計画を強行して1千億円も2千億円も余計にかかるなら、どちらが得か。ドライに判断すべきなんです。
③舛添都知事…ゼネコンなどからの情報をもとにした私の率直な勘でいうと、今の計画で進むなら、仮に2500億円ではJSCが出している完成予想図のような立派なものはできない。でも、ザハ・ハディド案のまま強行して、4千億円とかをかけるなら、私は一納税者の立場からは反対ですね。
----抜粋終了----

森氏はこの時既に「3、4千億円かかっても」としていて、後日「2500億円ぐらい何故出せないのか」と言ったのも当然だった(笑) また目立ちたがりの舛添氏は自分の勘としているが、4,000億円と云う数字は情報を聞いた関係者等がほのめかしたものだろう。その辺の事情はさておき、検証報告書でゼネコン参加後の工費見積りは次のような数字が出ている。
 (1)2015年1月…3,088億円(屋根工区1,248億円、スタンド工区1,840億円)
 (2)同3月25日…3,100億円
 (3)同6月15日~22日…2,520億円(開閉屋根先送り等の仕様変更後)

4000億円と云う大きな数字は全く出てこないのに、なぜ両氏が言及したのか。しかも、6月初めの記事だから、(3)の仕様変更による2,520億円も見えて来ていたと思われるのに敢えて4000億円を発言。前述の加藤氏記事も併せると、当方現時点の見方は、ゼネコン見積もりが以下のようになっていたのではないかと推測。
 ・アーチタイを入れずに基本設計の仕様で約3,100億円(ざっくりだと3,000億円)
 ・実施設計ではアーチタイが入るが、設計チーム担当の設計未完成でアーチタイ費用を一旦「1,000億円」とした
 ・3,000億円(アーチタイ無し)、4,000億円(アーチタイ追加)となって、併せると森氏の「3、4千億円」になる

舛添氏も「4,000億円」を示唆しているし、槙氏の「1千億円も2千億円も余計に」とも符合する可能性有り。
また4,000億円は大きい金額と云うだけでなく、もっと意味があると見る。当ブログで旧計画について取り上げた最初の頃に書いたように、「3,000億円」でも「断り見積り」のような金額と思われる。それが「4,000億円」になると、工期も含めて「絶対に無理」という意味合いになってくる。また、アーチタイは一旦1,000億円としても、設計が出来ていなくて実際にどれぐらいかかるか不明だったと思われる。

和泉補佐官はゼネコン直訴で説明を受け状況を把握し、迅速に抜本的対応が必要と考えて編成したのが「官邸主導ルート」と想定する。当方としては、ずっと考えてきたことがようやく一本につながったような気がしている。これを読まれた皆さんは「半信半疑」、或いは「疑」の方が多い(笑)と感じる方がおられるかも知れないが、この線での検証は続ける予定。

なお、「アーチタイ費用1,000億円の可能性」は、以下のZHAヒアリング結果などとも関連してくると思う。
<テレビ局がJSCに問い合わせて、キールアーチのコストが230 億円と答えていて、それが正しいと分かっているのに、他の数字が使われていたり、報道に倫理観が無いのが今回問題となっている。私たちも早い段階から、こういう設計で良いところがあるとPRをしたかったが、JSCがなかなか動いてくれなくて、その辺は残念だったと考えている>

当然キールアーチのコストに含めるべきアーチタイだけでも前述のように1,000億円かかるとすれば230億円は有り得ない金額。それを平気で言っているような姿勢だから信頼できず、官邸主導ルートの検討では思い切って早めにZHAを外したのではないかという推測もしている。

以上
[追記]
昨日記事で書いた「一ケ月前から検討」という総理発言に関連する下村文科大臣の国会発言が検証委員会資料の中にあった。
”新国立競技場整備計画経緯検証委員会(第4回) 配付資料
<平成27年8月4日参議院・文教科学委員会 文部科学大臣冒頭説明)
「新国立競技場の整備計画を見直すに至った経緯について」
・・・
本年4月、JSCの理事長から私に、開閉式遮音装置、可動席等を備えた整備内容では2019年春の竣工は困難であり、工事費も高額に上る見込みである旨の報告があったため、直ちに工期を間に合わせるための整備内容の更なる協議及び工事費の縮減について検討を指示しました。
その後JSCとともに検討を重ね、2019年春の竣工に間に合わせるためには、開閉式遮音装置を大会後の施工とし、可動席を簡素化するなどの案を検討しました。
また私自身も、様々な関係者から直接意見を聞いて研究した上で、6月に、ザハ案と見直し案について総理に状況報告をしました。その際、総理から、さらに研究を進めてほしいとの指示がありました。
ただし、その時点では、見直した場合、2019年のラグビーワールドカップに間に合わず、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会にも間に合うかどうかについても確信が持てませんでした
そのため、本年6月下旬の東京オリンピックパラリンピック調整会議においては、ザハ・ハディドアーキテクトのデザインを維持しつつ、工事内容を見直した計画を、目標工事費2,520億円として説明をしたところです。
また、7月7日のJSCの国立競技場将来構想有識者会議においても、JSC理事長からザハ案による整備について報告が行われたところです。

一方、総理の指示を受け、更に検討を行った結果、今月中に見直しを判断すれば、
 ① 事業者選定までに約半年
 ② 設計から工事完成まで50ヶ月強
で、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会には間に合う旨を、7月17日に私から総理に説明しました。 
今回のゼロベースの見直しは、ラグビーワールドカップには間に合わないが、オリンピック・パラリンピックには間に合うとして総理が決断されたものです。その際、私の報告も踏まえてなされたものと考えています。
今後の整備計画は、新たに設置された「新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議」において検討されることとなりました。>

「一方、総理の指示を受け、更に検討を行った結果」というのは、和泉氏の官邸主導ルートによるものと推測できる。つまり、文科省・JSCルートと官邸主導ルートの2系統があったことは、この発言でも充分裏付けられると思う。
ただし、「(五輪には)間に合う旨を、7月17日に私から総理に説明しました」と言っている。これは官邸が下村氏の顔も立てて安倍総理に報告する直前ぐらいに説明し、そのまま同氏が安倍総理に説明したというレベルの話と思われる。もし実際に下村氏が白紙見直しの段取りまでして五輪に間に合うようにしていたなら、逆に功労者で後日責任を取らされてあっさり切られることはなかった。
「見直した場合の工期に確信が持てなかった」とこの時も述べているから、文科省・JSCは白紙見直しの検討を行っておらず仕方無しにZHA案で一応形だけ進めたが、水面下の官邸主導ルートでは本文でも記したように早くからZHAを切っていたと見る。

追記以上