旧計画再検証7 安倍総理発言(昨年7月17日)「1か月ほど前から計画見直し検討」の意味
安倍総理が2015年7月17日に「白紙見直し」を表明した際の発言は以下のようだった(前半部)。
オリンピック・パラリンピックは、国民みんなの祭典です。何よりも優先されるべきは、国民の皆さん、アスリートの皆さんから祝福されるものとすることです。
国民の声に耳を傾け、1か月ほど前から現在の計画を見直すことができないか検討してまいりました。本日、オリンピック・パラリンピックまでに工事を完了できるとの確信が得られましたので、決断を致しました。>
この中の「1か月ほど前から検討」の根拠となる情報が今まで無かった(調査したニュースサイト「Hunter」の記事を追記に掲載)。そのため、ずっと謎だったが手がかりが見つかったように思うので本日紹介。検証委員会の下村文科大臣ヒアリング結果に、該当すると思われる総理指示の記述があった。
----下村大臣ヒアリング抜粋開始----
○ 平成27年(2015年)6月の中旬には、ザハ・ハディド氏の案をこのまま続けた場合、建築家の槇氏のグループの見直し案に変えた場合のメリット・デメリットも含めて持っていき、ザハ・ハディド氏の案を変えるべきではないかと総理に説明した。変えた場合に、必ず間に合うかどうかの確証を得られていなかったが、相当のコストダウンにはなることを説明し、総理からも、更に研究するよう指示があった。
○ 2,520億円でやむを得ないと思った段階では、工期が間に合うと確信を持てる材料がまだ無かった。今年の7月17日に総理のところに行って、見直しをした際には、ラグビーワールドカップには間に合わないが、オリンピック・パラリンピックには、ゼロから見直しても、工期は間に合うという確信を持てた。
----抜粋終了----
状況を推察してみると以下のようになる。
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下村文科大臣は6月中旬にザハ案状況や槙案等について総理に説明し、「ザハ案を変えるべきではないか」という考えも伝えたが、変更した場合の工期確証を持っていなかった。安部総理からは「更に研究するように」と云う指示があった。7月17日の「1ケ月ほど前から検討してきた(させてきた)」は、この指示のことと考えると期間的にも辻褄が合う。
しかし、それよりずっと以前から文科省・JSCとは別に和泉総理補佐官主導で国交省官庁営繕部からの出向者を中心とした官邸チームがゼネコンと対応策を検討していた。その結果として(多分7月上旬ごろ)「白紙見直し→新コンペ」案が総理のもとに上がって来た。大成建設社長も7月14日官邸に行って「ラグビーW杯には間に合わないが五輪には間に合う」と総理に伝えた(12月23日朝日新聞記事)。これで総理も納得したと思われる。ラグビーW杯は森元総理案件とも云えるから、森氏に説明したうえで「白紙見直し」を7月17日に発表した。
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上記から安倍総理の状況を更に整理してみる。
(1)総理は(多分費用よりも)工期を一番気にかけていた
(2)6月中旬に下村大臣が説明に来たが、工期がハッキリしなかったので更に研究するよう指示した
(3)同大臣と文科省は結局ザハ案で進めたが、和泉補佐官のルートから「白紙見直し案」が上がってきた(菅長官の差配もあったと推測)
(5)森元総理に了承得たうえで、7月17日に「白紙見直し」を会見で表明した
(6)その際に、自分が指示した結果と思い「1ケ月前から検討」を独自に入れて話した
加えて上記ヒアリング引用の後段によれば、本来の担当である下村大臣は「白紙見直し」案を7月17日に総理のところに行った際に聞いたとのこと。安倍総理は下村大臣に指示した結果と勘違いし、同大臣は総理が別途指示してやらせたと思っていた。勘違いによって逆に話が丸く収まることは実際にもたまにあるが、この件もそういう事例だったかも知れない。ただし、国の中枢部だから信じられない気もするが、人間がやっていることなので同じという気もする。
以上が現段階での当方推測だが、今のところ、これ以外での説明は他の情報を総合しても見つけられていない。さて真相はどうだろうか。マスコミは今からでも、もっと突っ込んで取材してもらいたい。
以上
[追記]
本文で取り上げた「1ケ月前から検討」と云う総理発言について疑問を持ったニュースサイト「Hunter」が、「各省に情報公開請求を行って調査したら各省とも否定した」と云う記事を出していて昨年にも紹介したことがある。
”安倍首相「新国立」見直し“1月前から検討” 各省が否定”2015年10月22日 ニュースサイト Hunter
<発言内容に疑問を感じたHUNTERの記者が、会見から5日後の7月22日、関係各省に情報公開請求を行っていた。
これを受けてHunterは以下のように、他のマスコミでも多く喧伝された「安保法案採決」と絡めた憶測を書いた上で、”ありもしない「検討」”としている。
<見直しを発表した首相会見は、衆院特別委員会で安保法の強硬採決(7月15日)が行われた2日後だった。支持率低下に歯止めをかけるため人気取りに走り、ありもしない「検討」で国民を欺いた格好だ。>
しかし、総理の周囲にはこのように考えた人がいたかも知れないが、当ブログが想定する実態は以前から述べて来ているように、「着工やIOC総会の期日が迫り追い詰められての決断」であって、とても英断と呼べる状況ではなかったと考えている。この点は由利氏記事も「支持率浮揚に利用されたとする考えは、問題の深刻さをとらえていない」としていている。
ただし、同氏記事でも、この総理発言に関しては大きな事実誤認がある。
<「白紙撤回」の二日前、7月15日のことだ。…「東京都から追加の500億円をお出しすることは絶対にできません」…従前から難色を示してきた舛添要一都知事の”最後通牒”が伝えられた瞬間だった。…この日を境に、雪崩を打ったように「計画見直し」へと流れが変わった>
これは完璧な間違いと考えられ、たった2日前に流れを変えて、この大きな問題の見直しが出来るはずもない。更に7月15日には既に見直し案が浮上していたとの朝日新聞報道もあった。また、7月15日に見直しが決まっていたことはJIAにまで漏れていた。
<7月15日に政府が設計見直しの方向を打ち出したことは時機を得た決断であると考えます。>
ちなみに、由利氏記事を見てきて、全体が少なくとも3つの部分に分かれるのではないかと思われ以下に示す。
第2部が深い内幕暴露になっていて、一番重要であることはすぐに見て取っていただけると思う。第3部はどちらかというと一般論の趣があると捉えている。第1部の政治の話は一見確度の高い内幕話のように書かれているが、上記のような事実誤認がある。第2部の内部情報に、第1部・第3部を別の人などが付け加えた可能性があるように思う。
同記事を当方は重視して引用も多いので、「全部信じているのではないか」、もっと言えば「信じ込んでいるのではないか」と思われる方も、もしかしておられる知れないが、実際には第2部内も含めて是々非々で理解することにしている。
追記以上