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A案の課題(木材の使用中心に)

前置きとして、これまでA案のザハ案流用問題について書いてきたが、主に図面比較によって設計情報の流用が有ることを解明してきた。更に考えるべきは図面に表わされる情報だけでなく、ザハ案の設計を実施した設計者達がA案のチームに参加している。つまり、設計情報だけでなく、それを一から検討して図面化した設計者の知識・経験やノウハウも、設計者ごと取り込まれている。人的流用まで出来ているのだから、この流用は凄い。
竹中と日建設計・アラップ・日本設計はいないが、屋根部は構造が全く変わっており耐地震設計も免震から大成の制震方式に変更されたため、後で設備設計担当の日本設計を取り込めばほぼ完璧か(竹中の屋根部の能力も加わると更に理想的ではある)。A案の潜在的設計完成度は、もしかすると正式契約すれば殆ど間をおかずに建築申請にかかれるほどではないか、とさえ思えてくる。本年12月着工と云う予定も前倒し前提かも知れない。ただし、当然ながら内実がどうなっているか詳細は分からないので、実態は正式契約時の条件などで判明することになるだろう。

結果的にこのままA案続行も可能性有りということで課題を検討してみる。その際に以下ブログを見せて頂いたら、当方がA案の重点課題と考えていた「木材の使用」を中心に詳細な検討がなされていた。その中で当方の考えていた懸念も殆ど言及されていて、更に広く深い検討がなされているため、一部についてのみ引用して簡潔に見解付加する。後は是非内容豊富で的確な以下ブログをお読みいただきたいと思う。

新国立競技場建設―A案への疑問” 2015/12/29 「プーさんのひとりごと」
A案は不可解な部分が多くあります。日本は多雨で風が強く吹きます。そのため屋根(軒)を大きく張り出し、独特の軒下空間が発達しました。ところでA案の4・5階では、外側の柱(トラスの弦材)が内側に傾斜していて、5階のコンコース上には屋根がありません。木造建築にとって雨は大敵です。雨がかかって湿り、日照で乾燥する、その繰り返しが木材を急速に劣化させます。したがって構造体の一部に当たる木材は、雨が直接かかるのを避けなければなりません。>
→「5階のコンコース」は「空の杜」を指していると思われる(4階はコンコース)。「ザハ案流用から5階に屋根がない構成が発想されたのではないか」という当方推測は昨日記事で掲載。(「空の杜」についてZHA側はスカイウォークとの類似性も指摘することが考えられる、ただしスカイウォークは屋根有り)

 <同じように2階から4階の外部に廻された廂はいったい何の意味なのでしょうか。日本家屋の庇は壁面にかかって累積した雨の水切りを兼ねています。A案では庇の下側に縦の木格子が打たれ、見上げた時には軒のような錯覚を受けますが、上面は平坦で外側に0.6×1mの植栽ユニットが置かれ、その内側は約1m弱の平坦な管理用スペースになっています。この管理スペースと植栽ユニット部分の雨仕舞はどうするのでしょうか。>
12月29日記事”A案の原案表記とモチーフ”で記したように、「五重塔がモチーフというのは後付け」と考えれば「廂(庇)」への疑問にも答えが出ると思う。やはり違和感を持って気づく人も出てくるわけで、「モチーフ偽装」は個人的には流用問題を超えて深刻と思う。日本の伝統に対する冒涜を「国立」競技場ですることになってしまう

<コンコース上に斜めに張り上げる縦格子の施工も大変です。なにしろRCプレキャストの楕円錐の背面に、木造・縦格子の天井を張ろうと言うのですから、在来工法の技術的蓄積は全く役にたちません。このように難問山積みのA案がJSC公表の審査結果の工期短縮の項目で、B案に27ポイントも差をつけているのは不思議としか言いようがありません。>
→工期短縮の評価についても、ザハ案流用での潜在的短縮効果を考慮にいれると説明がつくのはこれまで述べてきた通り。また実質は27ポイント差どころではないと思われる。

<A案では(屋根部分に)「木材と鉄のハイブリッド」と称して、木材と鉄を一体にして使用し、特にトラスの下弦材では鉄材を集積木材の中に挟み込んでいます。本来、鉄と木はなじみ難い材料です。木材は水の浸み込みやすい材料ですが、鉄は水気を嫌います。鉄は温度差で伸縮しますが、木材は含水量の多寡で伸縮します。この点が木造建造物の補強に鉄材を使用する場合、頭を悩ます問題であり、通常雨のかかる部分では、木と鉄の併用は極力避けます。>
→当方が特に気になっている「屋根という一番環境条件が厳しい場所に木材を使う設計は本当に良いのか」と云う点についても的確に指摘しておられる。

ただし、最後の方で次のように述べられている。
<しかし賽はすでに投げられました。新国立競技場の優先交渉案がA案に決まった以上、そのデザインの目玉であるスタンド上屋のハイブリッド工法や環状庇の形状を変更することは不可能でしょう。とにかく新競技場の予定通りの完成へ向けて、努力あるのみです。>
→やっぱりやるしかないのか・・・。しかし、コンペの公平性が著しく毀損されている点も置き去りで不問にしてしまうのだろうか(当該記事を書かれた時点においてはザハ案流用は考慮に入れておられないと思うので、流用の証明図面等を目の当たりにすれば判断は変わり得ると思うが)。

そして、一番最後は次のように結ばれていて当方と同趣旨の見解。
<しかし、A案が「日本の伝統的な木構造を現代の技術で甦らせる」と言う設計者の主張は、もう少し控えめにしていただきたいものです。>
→加えて、少なくとも「原案 ZHA」を入れないと日本は根本的な誠実さまで失うことになってしまうと思う。

以上