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A案の原案表記とモチーフ

類似性検証結果からの更なる考察。

(1)「原案 ZHA」表記の必要性
A案とザハ案の関係を整理すると、A案は設計構想段階で概ね①→③の過程を踏んだのではないかと推測。
 ①ザハ案スタンドがベース大成建設はスタンド工区担当で詳細図面保有
  ・ザハ案スタンドはキールアーチの下になる部分を低くする必要があり、サドル型にして6階建てになっていた
 キールアーチ廃止
  ・スタンド高さが抑えられ、同形状の連続で作りやすくなるフラット型に変更して6階削除
 ③スタンド形状流用
  ・6階分を除く上段と中段のスタンド形状を流用し、それ以外の部分で新コンペ用変更実施

これによって発生した類似性は、ザハ案を「下敷きにした」と言われても反論が困難なレベルと当方には思える。そして更に、削除した6階部分の名残りが重要な効果を発揮していた。下図にて説明。

イメージ 3

図のように、ザハ案6階スタンド下の柱(最外周)にほぼ相当する位置に、A案でも柱がある。但し、A案には無い6階スタンドを支える代わりに、片持ち屋根の支柱になっている。つまり、6階削除で不要になった柱を、途中で曲げて屋根支柱に転用した形になっている。なかなか上手い「廃物利用」と率直に感心。
そしてA案の外観意匠においては、「傾斜した柱の並び」(下図)が技術提案書でも「周辺への圧迫感を軽減する」効果が期待されていて、特徴的である。
イメージ 1

これに関して、前述のようにザハ案最外周の柱をA案屋根支柱に転用してスタンド上端まで延ばす際に、途中で折り曲げて斜めになったというシンプルな経緯が想定できる。結果的に外観の重要な特徴である「斜めの柱列」はザハ案の廃物利用から来ているようである(苦笑)
また根本的仕様のために敢えて類似性項目には入れて来なかったが、ZHA側はA案空中回廊「空の杜」とザハ案「スカイウォーク」の類似性を指摘することは確実と思われ、他にも指摘が多々出てくることが想定される。

ここまで来ると、もはやA案には「原案 ZHA」を入れた方が適切と思える。知財や既契約内容等に関する論議を超えている気がする。必要な追加費用は原案料に限定してZHAと交渉(相当払ってあるが早く黙って貰う)。
なお、ザハ案を下敷きにして完成度を向上させた大成チームに対して、独自設計で臨んで技術提案審査において多くの項目で上回った竹中チームの能力には改めて感心。以前から述べてきたように、やはり竹中チームに加わってもらうべきではないか。

(2)モチーフは法隆寺五重塔か、ザハ案の延長か?
前項の「原案表記」追加は現時点では当方個人的見解のため、実際にどうなるかは分からない。政府やJSCはこのまま押し切ってしまうのかも知れない。だが、更に(1)を上回る懸念も潜在的に存在することが見えてきた。
隈氏も述べていたように、A案の重要なモチーフとして「法隆寺五重塔」が技術提案書の「日本らしさ」の項目で掲載されている。

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前項で検証したザハ案の不要柱処理から、この「多層の水平軒庇」も容易に出てくる。設計構想の想定過程と、それを前項図へ追記した図を示す(前項から続く流れと仮定し連番)。
 ④ザハ案の外壁を削除する(仮想的に最外周の柱も一旦外す)
 ⑤各階床を外側に延長する(外した柱を戻す)
 ⑥柱の先端を折り曲げてA案の屋根支柱に転用する

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これで「五重塔」のモチーフは出てこないまま、「水平軒庇と鉛直柱」で構成されたA案外観があっというまに完成。後は木格子等と植栽などで和風と緑のお化粧。
お絵描き歌並みかと思える簡単さだが、当方は結構深刻に捉えた。前項の原案明記をもし行う場合には、短期設計実現の代償としてやむをえない対応策と、まだ納得性が得られると思う。しかし新計画で大きな特徴とした「日本らしさ」が「ザハ案(の廃物利用)由来」だとしたら困った話。国民が「日本らしさの体現」と誇りを持てるスタジアムになるのだろか。

当然ながら大成チームは「そのような設計経過は無い」と強調すると思う。だが、スタンド設計流用の延長による屋根支柱転用の発想は実際にも全く無かったのか。仮に「”水平軒庇と鉛直柱”は完全オリジナルデザイン」と言い続けるとしても、(1)で流用を認めるとすると、「水平軒庇はザハ案各階床の延長とほぼ同じ高さではないか? 鉛直柱列もザハ案柱列と同数でほぼ同位置ではないか? 」と芋づる式に指摘されかねない。これには今のところB案への変更ぐらいしか対応策が思い浮かばないが、それにもリスクが有る(追記でも言及)。或いは(1)も含めて否定し続けるか(ただし特に①~③の関係性による類似性否定は至難の業)。

なお、伊東氏が<「神宮の杜に法隆寺と言われてるようなお寺を造っていいの、えーっていう感じですね>と話している。このようなことを気にしない人もおられると思うが、当方は伊東氏と同感。日本人は融通無碍で神仏習合も伝統の一つではあるが、明治時代は状況が違っており、建築される場所はまさしく「明治神宮」外苑。「国立競技場」だから、気にしない国民がいても全体を考えれば配慮すべき重要事項と思えるが、歴史がある大手建設会社が組んだチームが無視してきたので違和感を覚えた。それがザハ案流用の延長だと、あっさり説明がついてしまう。笑い話のようだが、笑えない話でもある。

以上
[追記]
本文(1)だけ考えても、A案の設計は誰が行ったか?と云うことになりそう。現段階で推測すれば、大成建設設計部門や梓設計がザハ案をベースにしてキールアーチ削除・片持ち屋根追加等を行って、基本構造を仕上げたと見るのが妥当ではないか。それを隈氏が和のテイストでアレンジしたことが考えられる。柱列や軒庇として構造が外装に出てくる構成なので、隈氏のやれる範囲は少なかったと想定される。A案決定時の渋い(と見えた)表情の心境も分かってくる気がする。

またB案も屋根に強い竹中であることを考えれば、少なくとも釣り合い方式の屋根構造は竹中設計部門の可能性が高いだろう。72本の巨大木柱の方は、幼少期を諏訪で過ごしたという伊東氏の御柱モチーフが生きているのだろうか。

なお、A案設計がザハ案ベースと分かって来て完成度は予想以上に高いと思われる。しかし、ZHA側がどう出てくるかというリスクが有る。かといって、現時点での設計完成度の高さは最重点課題である工期短縮の実現性に対して非常に重要であり、技術提案評価で上回った項目も多いとはいえB案に乗り換えることもリスクが生まれてくる。審査委員会はA案の潜在的設計完成度まで評価して工期短縮実現性で差を付けたのだろうか。
両案共リスクがあるから、やはり五輪までには建てずに国民的論議を行うという当初からの当方見解も又出てきてしまう。想像以上のザハ案流用という事態でますます難しい状況になってきたように思う。

追記以上