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提案書の出来栄えから見えてくるもの

今回の提案書は両者とも凄い出来栄えだと思う。経験からしても、これほどのものは見たことがない(業界の違いも有るとは思うが)。昨日「概要版作成も考えるべき分量と内容」と書いたが、旧計画からの経緯により日本が誇るゼネコンの気合の入った提案書2種類を、黒塗り部分はあるが殆どフルに見られたのは技術者として有り難いこと。
これに対してどうコメントするかは、専門家の方々の見識と能力が問われると思う。よってA・B案の建築物としての比較評価は、まずは専門家にお任せして当方は違う観点から考察したいと思う。

但し、デザインについては当方も大いに興味があるので概略検討してみると、公開後のマスコミ調査などでは全体的にA案優勢の状況。しかし、事前に作品例を見た限りでは、伊東氏の発想力や造形力が上回っていると感じたことを先日書いたが、今回の作品を見ても同様の印象だった。それで最終的にはB案が徐々に追い上げて拮抗してくるか、A案がリードを保ってやや優勢を続けるか、というような流れを想定している。それと「両方とも同じ様ではないか」と云う意見も増えてくると思う。つまり、どちらでも良いという意見(笑)
またA案を見る場合に重要な点は、パースに緑が多いことが一般受けしている可能性があるが、右下の方に小さく「競技大会後30年の姿」と書いてある(苦笑) 樹木の生育具合を五輪時点の想定に合わせたパースを出したら、イメージが変わってくる可能性あり。

さて、昨日は提案書公開の仕方から感じたことを書いたが、本日は提案書の出来栄えから感じたこと。
(1)提案書作成想定期間
とても約2ヶ月で作成できたとは思えない。やはり5月ぐらいからは大成と竹中が本格検討していたのではないか。そうすると半年ぐらいの期間になって出来そうに思えてくる(この辺りの検討は追記で実施)。逆に言うと、仮に2014年中にザハ案を止めていれば、ラグビーW杯も充分間に合ったことになる。槇氏とグループにはもっと頑張っていただきたかった。ちなみに「まだ基本設計に入っていない段階」と元東京都幹部の鈴木知幸氏が言っておられたが、基本設計か、それに近いところまでやっていないと、ここまでの設計書が出来る訳無いと技術者の視点からは思う。更に両案とも予想以上に内容が深いのは、或る程度連携して水面下でつながっていたことの証明かもしれない(相手の動きを知っていないとレベルを合わせられない)。

(2)ザハ案の基本設計書との比較
今回の提案書は内容が遥かに豊富。ただしザハ案で公開されたのは「概要版」だったので、実際にはもっと詳しい設計書があると思われるが、それでも新コンペ案とは比べ物にならないと推測される。ただしA・B案もそれぞれ梓設計と日本設計が入っているので、ゼネコン設計部門との役割分担は不明だが、日本の「建築家+組織設計事務所+ゼネコン」だと、これぐらいの設計が出来るということになる。大型プロジェクトはデザインビルド方式が相当取り入れられる可能性がありそう。

(3)B案はJV(ジョイントベンチャー)関連記述が多い
3社JVのメリットが色々書かれている。逆に見れば、意思決定面等でのデメリットを認識しているからこそ、メリットや決意を書いているとも推察される。その意味でやはりJVのB案は不利ではないかと思う。しかし、流石に屋根の説明は詳しくて、やらせてみたいと思わせる。A案になった際に、竹中に屋根部分で参加してもらうのが最善の体制ではないかと思うが、落選した会社が下請け等で参加する方法はあるのかどうか?、公共事業におけるルールは未把握。

(4)事業費縮減提案
これに関する部分は黒塗りになっていて、ページ全体が隠されている箇所もある。裏読みすれば、これの内容次第で決まるシナリオになっている可能性もありそう。事業費は今でもA案が約7億円安いが、どちらかがもっと差を付ければ、デザインより事業費メインで決めやすくなる。
また、費用縮減は工期短縮にも繋がる可能性が出てくる。ここで気になるのが一昨日森元首相発言の<あと2ヶ月前に出来ると言ってくれたら、ラグビーも出来るんだけどね>という話。当初納期設定は2020年4月末で短縮目標が1月末だった。それが更に2ヶ月、計5ヶ月も短縮され2019年11月末で両者提案してきた(ピタリ合っているのも不思議)。早くから検討してきた成果ではないかと思うが、もしどちらかの陣営がもっと縮めて「2019年9月のラグビーW杯に間に合わせられる」という提案になっていたら、間違いなくそちらが選定されるだろう。
ただし、五輪開会式ほどのリハーサル等は必要ないにしても、やはり準備期間は必要で、ギリギリ9月に競技場完成が間に合っても実際の開催には難しさがあるだろう。また、工期短縮自体も既にこれ以上無理というところまでやっていると思われる。それでも森氏だけでなく「あと2ヶ月何とかならないの?」という願いは出るだろうし、南ア戦歴史的勝利の余韻も残っている。夢物語レベルかも知れないが、ほんの少し期待しておこうと思う。
もう一つ可能性として、工費が下がったら最後で削除した座席空調を復活させないのかという課題もあるだろう。コンペ設定の1550億円からしたら、大成見積りで約60億円下がっているから、縮減で90億円という空調設備費用に届くかもしれない(ただし空調追加は工期短縮には逆方向になるだろう)。なお、資材・労務費の高騰については、どうなるかわからない面もあるので、当方は現在余り考慮に入れていないというか、入れられない。

以上
[追記]
五輪担当相が「前の案より素晴らしい」と会見で言っていた。これはザハに失礼。開閉屋根削除等の与条件変更を考慮に入れない発言は困ったもの。無邪気すぎるのも良し悪し。ZHAは「プロセスを急いだことで深刻なリスクがある」とのコメントを出して批判しているようだが、これぐらいで済めば御の字。やはり何か水面下でやってあるのか。普通だったら遠藤大臣発言にもカチンと来て訴訟に発展してもおかしくないぐらい。
なお、本文でも書いた2015年5月ぐらいからの大成・竹中先行検討の可能性については、日経アーキ10月10日号インタビューで当時ZHAの内山氏が次のように語っていることが関連するのではないかと推測している。更に参考として同号記事の経過表も添付。
5月に入ると最終的な価格の交渉はJSCの手を離れた。その後は官邸と施工予定者が直接交渉をすると聞かされた。

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政府側がザハ案で進めるつもりなら、コストダウン検討を行っても監修者のZHAに了承を求める必要が出てくる。日本側だけでも作業は出来なくはないが、著作権問題や契約上の問題が発生する可能性があり、JSC鬼澤理事も懸念していたようにZHAとの間は訴訟リスクが出てくる。それでも外したということは、この時点において「ザハ案中止・新計画検討」の動きが明確になったと見るべきだろう。また1月にゼネコン見積もりが出てからのZHA側VE提案は余り顧みられなかったようで、2月~4月のどこかの時点から官邸(和泉氏中心)とゼネコンは調整に入っていたと想定。これぐらいやっていないと今回の提案書は出来ないのではないかというのが当方の見方。

追記以上