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一般論と特殊事情の分別

本日の東京新聞朝刊に「第三者委聴取録」を基にした検証記事が掲載されている。1面トップ扱いで12面は全部特集記事となっていて気合は感じられる。だが端的に言うと、森本記者本で当方が物足りない要因として挙げた以下の2点は本日記事でもやはり同様になっている。(取材者は森本記者含め3名の署名記事)
 (1)キールアーチ支持構造問題の追求不足11月30日記事参照)
 (2)和泉総理補佐官の関与抜け落ち12月9日記事参照)

当方がこの2点を重視するのは、旧計画の経緯の分かりにくさに直結すると考えるからである。
11月10日記事”登場者検証8 「安藤忠雄氏」”で、次のように同氏の言い分を分析した。
<全体的には納得性の有る話と感じる。「白紙撤回」に疑問を持つ人の多くは、このような論理かなとも思った。しかし、それは一般論としての納得性であって、旧整備計画では特殊事情が色々重なっており、安藤氏はそれを未だ認識されていないように思う。>

これを更に説明すると、安藤氏は「コストが問題ならば、事業者と設計者と施工者で、計画を変更調整するのが当たり前の建築プロセス」と言っている。「白紙撤回」に疑問を持つ人の大方の論理と思われ、当方はそれを「一般論」とした。
しかし、旧計画では上記(1)の支持問題による「建てられない」と云う事態が発生しており、やり直し以外の変更調整レベルでは済まなくなっていた。そのことを「ZHA+アラップ+日建設計」の設計チームが2年以上に渡って伏せ続け、今もそのままである。構造設計のドリームチームとも言える陣容で、この有り得ない異常状態が発生していたことを旧計画における「特殊事情」と考えている。

ただし、「建てられない」設計であったことは未だに広く認識されておらず、当方などの仮説という形にならざるを得ない。報道機関や建築関連団体及び個々の建築設計関係者などがぜひ解明に取り組んでいただきたいと思う。
コンペのあり方などを議論するのは良いことだが、特殊事情で歪められた分までコンペのあり方で対応しようとしたら、本質から外れた議論になる部分が出て来る。例えば、「デザイン監修者を選ぶコンペはどういう問題点があるのか」を考える場合に、実際には監修者の立場ではなく設計を主導していたZHAと日本側の日建設計が構造問題を隠し続けた異常状態が混迷の要因ならば、一般論で議論しても今回の実態とは違うことになる。本質追求のためにも、まず特殊事情とその影響を明らかにすべきと思う。

また、構造問題とは別に「リーダーシップ論」も検証の中で語られることが多い。東京新聞記事は<多くの担当者が計画に疑問を抱きつつ止められなかった>と冒頭で書いている。また検証報告書では<国家的プロジェクトに相応しい権限と責任を伴ったプロジェクト・マネージャーが組織の中に明確に位置付けられていなかった。また当事者能力を有するプロジェクト・マネージャを発掘・配置していなかった>と書かれている。

これに対して上記(2)を考えてみれば、仕事師・政策職人と言われる高い能力を持ち、総理補佐官として内閣官房の強力な権限や国交省との太いパイプが使える和泉氏というリーダーが、たまたま官邸にいたから着工寸前に白紙見直しが決断できた。これも特殊事情に入ると考えており、旧新計画を通してリーダーシップを考えるなら和泉氏の動向は外せないだろう。ただし、水面下の動きが多いので一見して分かりにくくなっているが、同氏主導は昨日記事で紹介した毎日新聞や「現代ビジネス」、そして文藝春秋由利氏など複数の記述がある。

更に別媒体として産経系のZAKZAKにも以下記事がある。
和泉補佐官が事実上、新国立競技場建設のプロジェクト・マネジャーだろう。
このプロジェクトは、2020年東京五輪に間に合わせて新国立競技場を建設するという明確な目標がある。その管理をするのが、政治的には関係閣僚会議、事務的には推進室だ。このリーダーは事実上、副室長の和泉補佐官であろう。
 目的達成のためには、予算の裏付けやコスト計算が必要であるが、副室長の古谷副長官補が財務省の意見を言うのだろう。工程管理は、和泉補佐官が中心となって民間事業者と詰めるはずだ。>

森本記者本は<検証報告書は「権限や責任を持つリーダーの不在を責めている」が、同時に柏木委員長は会見で「日本にそういう(リーダーたる)人材はほとんどおらず、それが出来るかは別」などと、仕方ないとでもいうような口ぶりで話した>と書いている。
それならば新計画のリーダがどうなるか取材するのは必須事項。そして上記のように和泉氏が主導と書かれた記事が複数ある。東京新聞は新国立競技場問題に力を入れるなら、自社記事だけにこだわらず広く情報を集めて検証すべき。
特に、当ブログ11月22日記事で書いたように新コンペで業者決定後、JSCと文科省がゼネコンの尽力を当てにして巻き返す事態が考えられ、そうなると今後の進行に大きく影響を及ぼすことになる。一般論でリーダ不在を語るだけでなく、実際のリーダがどうなるか綿密な取材が必要だろう。

だが、東京新聞記事の大見出しを見ると、「首相演説 撤回の足かせ」であり、お約束の総理批判に持って行きたいようだ。しかし、安倍氏はお膳立てに従って演説しただけなことは明白。混迷の解明につながる上記(1)(2)を追求しないで、安直な政権批判に持って行くのでは真相が見えなくなる。森本記者には、本の「あとがき」にご自身で書いているように、「本当のことを知りたい」という気持ちのままで、客観的事実報道を貫いて頂くことを期待。

以上
[追記]
構造問題に関して、基本設計書公表を受けて出された建築業界向けサイトのケンプラッツ記事に鋭いコメントが複数付いていた。
----コメント(P4下)抜粋引用開始----
①とりあえずそれらしい資料をだせたようですね。
膜屋根で荷重を減らし、免震で横力も減らす。まあそれは良いでしょう。
でもメインシステムは一応キール・アーチなんだよね?キールの基礎アンカーと免震の関係はどうするんですかね。
ウソはもう少し上手にね、アラップさん。
「クロスタイとキール部の内側リング、そしてスタンド外周に隠したリングをサイドストラットとミニ・サイドストラットで突っ張る」
で、それをスタンド下のフレームで支える。
もうキールなんか要らない、結果的にそうなっちゃってるでしょ、これ?
力の釣り合い考えれば、すぐ解りますよ。
ザハと安藤さんには、キールらしき部分にカバー付けてごまかすんでしょうけど(笑
でもクロスタイ太くなって、サイドストラットの数も増えるから、さすがにばれるか。実施案が、違う意味で、楽しみです。(かおいぇ 2014/05/29 08:03)

②3月には基本設計書が示されるはずだったはずが、大幅に遅れてしかも肝心の構造計画が余りにも杜撰すぎる!こんな説明で基本計画本当に示せてると思ってるの?日建設計他豪華メンバーさん。基礎部分が一番の問題点であって、キールだとかクロスタイだとかそれらしい言葉で説明して騙せてると思ってるの?
かなり頭にきています。実現すると思えません。少なくとも同業者を納得させる資料にしてよ。最先端の技術を駆使して日本を盛り上げるんじゃなかったの?内藤さん?安藤さん?有識者なんだろ?「JSCは意見をもっとしっかり発言するべきだ」なんて他人事行ってんじゃねーよ。本当にリテラシーあるの?スパン370mで70mの高さ。これアーチですか?ちょっとスケッチしたらわかるでしょ?どれだけ“最先端技術”を駆使しなくちゃならないか。このdesignを実現するために地下でどれだけ頑張らなくちゃならないか。今、解決案示せないなら絶対絶対実現しません!!(YULAN 2014/05/29 21:51)

③構造的問題は解決したんでしょうか?
メインアーチのスラスト問題は。
新国立競技場の基本設計が終わらない理由3
de 検索してみてください。
(alice 2014/05/30 10:30)
----コメント引用終了----

コメント①②は、設計チームが「嘘をついている、騙している」との指摘。やはり基本設計書を見ただけで、すぐに構造問題が分かった人もいた。そして③のコメントは森山氏ブログ記事を紹介。このブログを見た建築関係者も多かったと思われ、その上で公開された基本設計の屋根フレーム図を見たら、アーチ両端に支持構造が無いことは一目瞭然。(当方も同記事を見て支持問題が分かったことを新国立問題の三回目記事(7月29日)で記した)
イメージ 2

本文でも書いた構造設計のドリームチームが、キールアーチ支持という基本中の基本に対して、「スタンドで支える」というアーチ構造にならない策をとった。その結果、コメントで指摘されているように「キールアーチではなくなっていた」し、スタンドに2万トン以上もの屋根フレームが乗る構造になった。しかし、それを明確に説明することなく伏せ続けるという異常事態が発生していた(JSCも絡んでいた可能性は考えられる)。しかし、余りにも異常すぎたためか、建築設計界全体に問題意識が広がるまでには至らなかった。

またその後にアーチタイが追加されたことによって、理屈上は支持問題が解決されたように思った建築関係者が多かったのかも知れない。しかし肝心のアーチタイの実現性や工期・工費等は不明なままだった。設計開始後1年以上経って、基本設計完了も有識者会議に報告了承済みだったにも関わらず、以下の簡略な図だけで構造説明も無しに追加されたアーチタイに納得出来たことになる。或いは納得したわけではないが、「ゼネコンが何とかするだろう」という日本建築界の魔法の言葉を唱えていたか。
イメージ 1

コンペ問題等の一般的本質論の前に、特殊事情と思われるドリームチームによるアーチタイに関して、今からでも建築設計界で検証していただきたいと思う。

追記以上