kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

森本記者本の物足りない部分

先日森本記者本を紹介した際に、長期に渡る豊富な取材の集大成としては物足りないところがあると書いた。その補足を行う。

政府の検証委員会が対象に出来なかった「白紙化経緯」について同記者は追求していて、その中でゼネコンからの3000億円超の見積りを最初に見た時のJSCの話がある。
<「建設費は1625億円」と言い続けてきたJSCの幹部は、私の取材に当時を振り返り、「こんな数字は見たくなかったというのが正直な気持ち。とても信じられなかった」と落胆した。…
これに対してJSCが取った判断は、ゼネコン側への金額圧縮の指示だった。この幹部は、「ゼネコンも赤字を出すのは避けたいので、さまざまなリスクを加味して見積もった数字だろうと思った。この数字はもっと圧縮できるだろう、何とかなるだろうと考えた」と話した。>

このJSC反応と指示はその時点では十分納得できると思う。ゼネコンは2014年12月からの参加で、大成は12月5日、竹中は同8日の契約締結。そこから約1ヶ月強の2015年1月13日竹中、同20日大成からそれぞれ第一回見積もりが出された。前例のない大型案件であるから非常に短期間の見積りと考えられ、その分まだ圧縮の余地は充分あるとJSC幹部が考えたのも無理はない。

だがその見積りと圧縮指示から1ヶ月足らずの2月13日にJSCが文科省へ報告した際の状況を森本記者は次のように書いている。
<2月13日、JSCは文科省に対して、3088億円(ゼネコン)と2112億円(設計JV)の2つの試算を報告した。受け取った文科省側の反応も、JSCと同様に希薄だったようだ。文科省関係者によると、JSCに調整を指示しただけで、積極的に問題に介入することはなかった>

この文科省対応に同記者は余り疑問を抱かなかったようである。しかしJSC幹部が<建設費より工期のほうがショックだった>と言い、「優先順位はコストより工期のほうが上だった」と同記者も書いているにもかかわらず、工期がラグビーW杯に間に合わないことも同時に聞かされた文科省側の反応は、あっさりし過ぎではなかったか。当方は以前からここに大きな違和感を持った。「違和感あるところに理由あり」のモットーにより、考察して書いたのが11月8日記事「ゼネコン・JSCと和泉氏」になる。つまり、ゼネコンの直訴を受けた和泉補佐官が動いた頃ではないかという推測である。

そして森本記者本には和泉氏のことがすっぽり抜け落ちている点が、キールアーチ支持構造問題の追求不足と共に物足りなさの大きな要因ではないかと考えている。
同記者は2013年毎日新聞の「建設費3000億円」報道は出し抜かれて衝撃だったと書いているが、和泉氏の件でも文藝春秋由利俊太郎氏記事だけでなく毎日新聞に抜かれているのである。
国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官文科省やゼネコンと協議し、「デザインは設計・施工一括方式」「工期は50カ月強まで短縮可能」との基本方針を急ピッチで策定した。 >

文科省は当然として「ゼネコンと協議」とはっきり書かれている。また現代ビジネスにも以下記事がある。
”新国立・白紙撤回の舞台ウラ 「森元首相を黙らせろ」安倍官邸が進めた極秘計画”2015年07月23日 現代ビジネス (ログイン必要なため転載がこちらに有り)
<官邸主導の「プランB」
 連日の批判で当事者能力を喪失していた文科省に替わり、首相補佐官の元国土交通省住宅局長、和泉洋人氏を中心に内閣官房チームに現行計画を白紙に戻し、ラグビーW杯を断念した場合の「プランB」を検討させていたのである。 安倍首相の「五輪までに新国立競技場が完成することを確信した」との発言は、この内閣官房チームのプランに基づいたもの。>

プランBを検討・遂行する体制として、官邸の担当部署に国交省官庁営繕部出身者を送り込み、更に新コンペの審査委員会も営繕部と和泉氏個人の人脈で固めたことも当ブログ9月21日記事などで解明してきた。

これらを踏まえた上で、次にZHA側の白紙化に際しての対応について考えてみる。
森本記者は<デザインを考案したザハ・ハディドさんは怒った。「工費高騰はデザインではなく、競争がない建設会社の選定などが原因」とする声明を発表して、不満を口にした>と書いている。JSCはもっと深刻に考えていて鬼澤理事が<仮に変更案が工期内に完成できるとし、現デザイン監修者ザハ・ハディド氏と契約を打ち切った場合、 損害賠償などの法的手段に訴えられる可能性がある。もし、工事差し止めの仮処分が科されれば、完成しない恐れもある。>と述べていたことを以前にも紹介した(7月13日日刊スポーツ記事)。

実際には現時点でZHA側から損害賠償請求や訴訟などの動きはなく、声明文やビデオでの主張が行われたのみである。しかし、契約解除してもZHA側がこの程度の対応で留まることを、ザハ案中止を決めた人は読んでいたのか。実質的に決めたのは和泉氏と当方は見ているから、同氏はどう考えていたか。訴訟等を抑えるためにZHA側と水面下の折衝などは無かったのか。

普通だと、いくら優秀な人でもそこまでやるだろうか?とも思えてしまう。しかし、前述の審査委員会人事や検証委員会のやり方、そして新コンペ応募を2グループに集約したことなど、水も漏らさぬ対応を目指して取り組む姿勢が伝わってくるように思う。それは新コンペを確実に成功させ、五輪までの完成を必達する目的だから、当方は良い方に捉えている。
そして新コンペの無事成立に向けては槇氏への働きかけも行なった方が確実、と和泉氏なら読んで動くのではないか。

以上のような事情全体を含めて、「どこまで出来レースなのか?」を考えていて、言葉は良くないかも知れないが、前述のように悪い意味では捉えていない。ただし、和泉氏の対応には検証委員会への制約のように隠蔽傾向が感じられることはあり、今後何らかの悪影響が出ないかと危惧。森本記者には今からでも和泉氏のことも考慮した取材を期待したい。

なお、現在当方がこのような推測を書いているのは、槇氏が五輪決定前に論考を書き、森山氏が基本設計公表前にブログで指摘したように、今回新コンペ応募案公表前に考えを記しておいて公表実施されてから又自己検証してみようと云う思いがある。つまり、当方の推測は、時には憶測に見える時もあるかもしれないが、いずれにせよ「仮説」のつもりで書いていて、後で実際に検証し、合っていれば良し、違っていたらその原因を分析し次の仮説を立てるというやり方になる。

その点で例えば以前11月5日記事の「追記」で紹介した「上杉隆」氏の方式だと、<安藤氏は「東大建築学科」をふるい落としたとしか思えない>との推測成立させるためには、「最終審査に残った作品数」という事実関係まで変えてしまうような手法も有るようだが、当方の場合は仮説なので事実と異なれば仮説の方を修正するという違いがある。

以上