kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

登場者検証10 「建築家の方々」とソーカル事件

アーチタイ問題を追ってきて、改めて実施設計図面を確認すると、アーチタイはごく簡単にしか書かれていないが、それでも疑問点が出てきた。実施設計の断面図を示し、それに対する疑問点を記す。
イメージ 2


イメージ 1

(1)~(6)のような点についても、建築設計業界で検証頂ければと思う。特に(1)接合部は上図の通りでは困難ではないか。キールアーチがアーチタイに半分埋まっているような図になっているが、接合部はもっと補強が必要だろう(ただし中心部断面図のため実際の接合部は見えていない)。双方が巨大で、かつ異種材料であるキールアーチ鉄骨と鉄筋コンクリート製アーチタイをつなぐ接合部の図面や工法設定はどこまで出来ていたのだろうか。

なお、同業界の方々については、昨日まで安藤氏・槇氏、そして内藤氏(昨日記事追記)という大家の方々について特殊事情認識の不足や言動の違和感について僭越ながら書かせていただいた。更に、槇グループや建築関係団体の方々も2014年に「JSCとの意見交換会」など絶好の場があって、アーチタイ問題等を的確に追求していれば早期見直しの可能性があったにも関わらず取り逃がしておられたことを記した。

また、注目される中堅建築家の一人であろう藤村龍至氏も<反対派のブログでザハのアーチが槍玉に挙げられると、アーチの基礎が地下鉄にぶつかる、アーチのせいで見積もりが高騰したなどという不確かな情報が一人歩き>、<見積価格の高騰はキールアーチが問題なのではなく、キールアーチの提案は求められたスペックに対するむしろ合理的な判断によるもの>などをHuffpost記事で述べられている。それであれば合理的なザハ案の最終的な「アーチ基礎」はアーチタイになる。アーチタイに関して「(工期含め)実現可能」、「価格高騰の要因ではない」という確かな見通しなどをお持ちなのだろうか。

ZHA関連では、以下のような記述もある。
ロンドンから見た新国立競技場の騒動” 木村正人  | 在英国際ジャーナリスト  2015年7月16日 
「日本の建築家は偽善者だ」ザハ氏
ザハ・ハディド氏は昨年12月、日本の建築家たちから自分のデザインに批判が相次いだことについて、オンラインの建築マガジン、dezeenのインタビューにこう語っている。 
「新国立競技場を私が設計することに決まったのは日本の建築家たちを困惑させているのだと思います。私が言えるのはそれがすべてです。私は東京が彼らの町であることを理解しています。しかし、彼らは偽善者です」
「彼らは外国人が東京に新国立競技場を建設することを望んでいません。その一方で、彼らは海外で仕事をしています」>

ザハ氏はこのような「誤解」をしておられるわけであるが、筆者の木村氏自身も次のようにコメントしておられる。
<新国立競技場のコンセプトは「『いちばん』をつくろう。」だ。ただし、世界の「いちばん」をつくるにはカネがかかる。日本にはその自覚も認識もなかった。>

これも「誤解」になる。日本側は「外国人デザイナー排斥」など考えていないだろうし、「いちばん」を作ろうと関係者は努力してきた。しかし、ZHAを含む設計チームが「建てられる設計」を出来ないまま着工寸前まで進んでしまったという、「特殊な状況」が生じていた可能性があるにも関わらず、検証委員会さえも異例の短期で終わらせて真相を発信していないのは日本側の問題になる。

よって全体経過を再検証すべき。まずは白紙化に影響した可能性がある「ZHA+日建設計」案の実施設計が建てられたかどうか、を優先的に検証していけば実態が分かってくるだろう。これまで書いてきたように政府がやらないなら建築設計業界で実施して頂きたい。更に「業界だけの問題」と捉えないよう、お願いしたい。前述のザハ発言などが海外ではそのまま報じられてしまう。日本や日本人全体までもが誤解を受け、今後不利益を被っていく可能性がある。建築専門家で、ザハ案を支持して見解発表されるのは自由意志だが、その内容に影響を受ける一般の方々も出てくるので、公表するからにはプロとしてZHA側主張や設計内容を出来る限り綿密に検証して頂きたいと思う。

なお、今回の顛末において”「ザハ+日建設計」案は建築設計業界に投げ込まれた「ソーカル論文」だったのではないか”と思えて来ている。つまり建築設計業界で”ソーカル事件”が起きていた。しかも巨額設計費が無駄になったという実害も有って、本物の「事件」でもある。業界はこれを本質的なものと捉えるべきと思う。

今回の問題は、業界の根幹をなすと思われる「設計と施工の分離」にも影響をおよぼすことは業界全体も感じておられるだろう。しかし、このような「事件」が起きてからも地道な技術的問題を余り論議せずに観念論先行になっているのではないか。
現実的に、発注者(JSC)側の対応がどうあれ、その評価を地に落としめてダンマリを決め込む大手設計事務所に対し業界として明確な批判も説明要請もされない。これでは「設計・施工分離」の基盤である「設計業界に対する信頼」が揺らいでしまうのではないか。信頼を取り戻していくためには、まず真相を検証し明らかにすることだと思う。
------------
これで「登場者検証」シリーズを終え、明日は神宮外苑について一番書きたかったテーマを書いて、それ以降は不定期掲載に入る予定です。なお本日追記はJSCに関する意外な事実。

以上
[追記]
JSCの山崎本部長は、横浜の国立大学の大学院で「電子情報工学」のご出身。母校でお話をされた際の紹介文抜粋。
<「科学の探求や技術開発は自分には向いていない」と当時の文部省に就職した山崎さん(1985年)。
現在(2010年)大学などの施設整備を担当されている。政治家との折衝や、国会対応、現場視察など、なかなか聞けないお話。「現場には様々な声が有る。それを一つ一つ拾って調整していくのが大切」>

JSCの実務責任者(新国立競技場設置本部長)文科省から出向の技官である山崎氏だったが、施設部門技官でも何と「建築工学科」でも、一応図面は読める「機械工学科」でさえなく、回路やソフトが主と想定される「電子情報工学科」出身だった。しかも「科学の探求や技術開発は自分には向いていない」とのこと。
これは大きな盲点だった。もちろん実際にどのように動かれたかは分からないが、上記からは「会議で設計書等の説明はするが、中身に踏み込むつもりはなく、調整が自分の仕事」というようなタイプが推察されてくる。
今回の事態に影響を与えた可能性は充分ある。ただし、当然ながらどのような影響がどれぐらいあったかは見通せない。

追記以上