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登場者検証8 「安藤忠雄氏」

当ブログの新国立競技場問題で第1回が「安藤忠雄」氏だった。それ以来の同氏で、今月号の「芸術新潮」という雑誌に村上隆氏との対談が載っている。新国立競技場に関する発言もあったので以下に抜粋記載(項目分けや箇条書きへの変更、( )内注釈等は当方実施…ぜひ現物購入して原文をお読み下さい)。

----抜粋箇条書開始----
①7月記者会見に関して
・事業者でも設計者でもなく、詳細な情報がわからなかったので、発言を控えていたが、(会見出席は)文科省の要請もあったので。
・倍近くに跳ね上がった工事金額に世論が疑問を呈したのは理解できます。自分自身、驚いた。
・しかし、”白紙撤回”は行き過ぎではなかったかと思います。コストが問題ならば、事業者と設計者と施工者で、計画を変更調整するのが当たり前の建築プロセス。
・こじれてしまったのは、問題を解決してプロジェクトを推進する強いリーダシップがなかったからでしょう。
②国際コンペについて
・当事者のひとりとして(選んだ)責任はあります。
・たとえば丹下健三先生の代々木の体育館、100年後にも「なるほど、この国はすごいものをつくった」言われるようなチャレンジングな精神を評価した。
・オリンピックを迎えるメガロポリス東京には、あれ(ザハ案)がベストだと判断しました。
・審査自体は正当に行われたと思います。
③ザハ案について
・「お金のかかるデザインが悪い」というような一方的な批判も有った。
・ザハさんの建築の背後にある計画は実に論理的で理性的です。
・彼女のチームは、設計事務所としては世界最高の技術者集団です。
・ザハさんと日本を代表する設計事務所が2年近くかけて積み重ねてきた蓄積を反故にして、時間もないのにコンペのやり直しから始めたわけです。白紙撤回でなく別の可能性もあったと思うのですが。
④新コンペに関して
・金額を明言して、コストと納期のクリアが重要ポイントのコンペ(は如何なものか)。
・無駄なく合理的は当然ですが、費用対効果を優先して決められてしまったら悲しいですね。
・仕切り直した以上は、日本のすぐれた技術力を世界にアピールできるような競技場をつくって欲しいと思っています。
----抜粋終了----

全体的には納得性の有る話と感じる。「白紙撤回」に疑問を持つ人の多くは、このような論理かなとも思った。しかし、それは一般論としての納得性であって、旧整備計画では特殊事情が色々重なっており、安藤氏はそれを未だ認識されていないように思う。

最終審査でザハ案に決まって、審査会議の最後にこうコメントしておられた。
<1等(ザハ案)の建築は相当のものですから、この作品が日本の技術力で完成できるとなれば、世界でもそれほどの技術力がある国は少ないですから、そのインパクトは相当あるだろう。材料も、工法も、構造技術も、設備技術も、日本の優秀さを表現できるという意味では、私は建築家として非常によいことだと思います>(議事録より)

ザハ案の技術的難しさ、課題の多さは充分に認識しておられたことになる。ただし、新国立競技場では次の2つの大きな困難が重なってしまったのではないか。
(1)基本条件の困難さ…都心の狭隘な敷地に開閉屋根付8万人収容多目的巨大スタジアムを、厳しい日本の耐震基準等を満足して五輪期日(当初はラグビーW杯も)厳守で建設する
(2)ザハ案の困難さ…長大スパンのキールアーチと支持方法、複雑な形状の開閉屋根等

元々基本条件だけでもクリヤ出来るかどうかというところに、ザハ案における構造問題対処という条件が加わった。どちらか片方だけなら対応できたかもしれないが、両方だったので破綻。安藤氏は両「難条件」の複合により、「(五輪までには)建設不可能」という事態だったことを未だ御認識しておらず、”白紙化”をコスト問題だけでお考えではないだろうか。

また、世界最高の技術者集団(ZHA)と日本トップの設計事務所(日建設計)の組合せを信じすぎていたのではないか。両社が商売優先で、構造面の致命的問題が分かっても弥縫策や実現が疑問視される策に頼って、その場凌ぎを続けるとは夢にも思っておられなかっただろう。なお、ZHAも日建設計も本来は安藤氏の期待に応える能力を備えているが、担当する人やプロジェクトの内容によってはそうではなくなる場合があるということだと思う。常に同じと思い込むと足をすくわれる事例ではないか。

結局のところは、安藤氏のみならず建築設計業界全体で「ZHA+アラップ+日建設計によるザハ案設計は本当に五輪までに建てられるものだったのか?」について議論や検証すべきではないか。そうしないと、いつまでも個人の主観による曖昧かつバラバラの認識だけが残っていく。
政府が検証しないなら今からでも業界でやって頂けないかと思う。JSCのHPに設計資料公開があり、解説記事も徐々に出ている。まずこれらを元に議論・検証を開始することは充分可能ではないか。このままではこれだけの失敗が国民も共有出来る教訓にならない。

以上