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登場者検証5 「和泉総理補佐官」

昨日紹介した検証委員長の記者会見はなかなか興味深く、柏木氏は検証対象外だった「総理決断」についても個人的見解を次のように述べている。(42分頃~)
<あそこで止めるべきかという決断は非常に難しい決断だったですね。工期が間に合わないということで資材の前発注をしていますし、それまで何十億というお金をかけて設計をやってます。それらを全く白紙に撤回するということをJSCや文部科学省が意思決定できたかというと、安倍首相以外出来なかったのではないでしょうか。ただし、それがいい決定だったかどうか。あのまま進んでいればザハ案で、2520億は1500億より1000億多いけども出来た。ザハ案の様に文化的に魅力ある、日本の技術力・文化力の発信があるものが(1000億高いけども)出来た。今度新しく出来るものが、それが出来ないとは言いませんけど、どっちが良かったかというのは非常に難しい判断だと思っています。

柏木氏は「白紙見直し」決断が本当に良かったかどうか懐疑的なのである。それで当方も改めて独自に考えてみたら、実は以下の3通りの道があり得た。
 (1)2520億円で着工する(7月7日有識者会議)
 (2)ラグビーW杯は諦めて着工延期し、それで出てくる時間で仕様を見直してコストダウン(先送り)
 (3)白紙見直し(総理決断)

(1)→(3)ではなく、(2)の選択肢もあり得た。これを更に考えてみると、まず官邸としては「ラグビーW杯に間に合わない」ことを森氏に了解貰えば約1年納期を延ばすことが出来た。その間に「コストダウンを検討します」と云うことにして、世論の沈静化や野党の追求交わしを図る。つまり、一気に白紙化せず先送りも可能だった。実際新コンペ仕様と同様に商業施設や空調を止めるなどすれば、数百億円のコストダウンは可能。その後国民も関心が低下した頃に、もう決めないと間に合わないということで、なし崩しの着工に持ち込む。政治家は先送りも重要な判断で、今回はまさにその手が使えた。そして(3)ではコンペまでやり直して本当に間に合うか、という賭けに近いような大きなリスクも生じる(更に新コンペ費用や新規設計料、事務方の人件費など種々の費用を加えた比較が本当は必要)。

ではどうして白紙見直しの決断になったのか。やはり「(五輪までに)建てられない」という根本的問題があったのではないか。和泉補佐官がそれを認識していて官房長官や総理に説明していたのではないか。そのような背景でもないと、いきなり(3)を選ぶのは前述の委員長会見のように「良かったかどうか」という話になる。

柏木氏の説明は本音では否定をにじませており、このような見方も出てくることを承知のうえで押し切ったのは、さすが和泉氏ということになるだろう。ただ、当方として未だに不明なことは、実際に和泉氏が「建てられない」と認識していたのかどうか。認識していた可能性が高いとは思うが、ではいつ頃認識されたのか。これが不明。白紙決断に至る経緯が明らかにされれば分かってくると思うが、同氏の仕切りと想定される検証委員会への様々な制約で解明されないままとなっている。

しかし、同氏が経緯を検証されないようにしたこと自体、知られたくない内容があったということになる。それは何か。現時点で当方が考えているのは「ゼネコン」との関係。同氏は「建てられない」ことを早くから把握してゼネコンと調整に入っていたのではないか。それは正しい処置だが、新コンペのやり方等も含めての調整と考えられるので、癒着と受け取られかねないから知られないようにしたことが考えられる。今回のゼネコンと和泉氏の関係については、特に発端部分を中心に明日検証予定。

なお、「白紙化経緯」関連では、見られた方もおられると思うが以下のような記事がある。
<今年7月、「新国立競技場」建設計画の見直しを発表した時の安倍首相発言が、何の根拠もない“作り話”だった可能性が高くなった。
  見直し会見の中で首相は、「1か月前から見直しを検討してきた」と明言していたが、関係各省への情報公開請求から、計画見直しの検討文書が存在していないことが判明。発言根拠が、どこにもない状況だ。>

記者は情報公開請求したのは良いが、文藝春秋9月号由利氏記事は読んでいないのだろうか。和泉氏が謂わば隠密裏に動いているのだから他の人は知らないということが有りうる。安倍総理が根拠もなく話を作ってこれだけの大決断したのだったら、それこそ超大物。しかも一応国民から支持された決断となった。記者は安倍総理を賞賛していることになるが、認識していないのだろうか(笑)

以上
[追記]
昨日本文の最後の方に「表彰式プレゼン案にあった『スラストブロック基礎』を無くしたのはいつ頃で、誰が決めたか?」という疑問を記した。これについて検証報告書に以下の関連記述があった。
JSCと設計JVは、平成25年(2013年)8月、ザハ・ハディド事務所との間で3回打ち合わせを行い、コスト削減を含めたフレームワークの見直しを検討した。その後、設計JVは、設計や工法について機能等を下げることなく代替案を探り、28のVE案を検討することにより全体予算を約1,350億円から3,540億円までの間で調整することができると報告を行った。>(P20-21)

これでいくと、8月20日の複数案(追記最後に参考添付)に関してZHAも関与している可能性が高い。またアラップも設計JVに入っているから2013年5月31日の契約になり、少なくともアラップジャパンは動けた可能性が有る。基礎構造検討の重要時期にZHA・アラップジャパン・日建設計が関与できたことになる。そのため、いつ頃どうして基礎構造が迷走し始めたのかはまだ解明できそうにないが、参考として日建設計ヒアリングでも以下のように書かれている。
<28項目のVE提案を出して、どれを組み合わせたら、1,300 億円に近づくかというという提案をした。(VE案を反映させた)基準案を1,350 億円に置いた。基準案はキールアーチのスパンを250m、開閉式遮音装置無し、立体通路無し、可動席無し、可動ピッチ無しという条件とした。>

前述のように時期的に主導はどこだったかは不明だが、日建設計も堂々と「250mキールアーチ案」を基準案として打ち出している。業界トップで構造得意という設計会社の誰かがこのような案を出したら、成立するものと信じこむ人が出てくる。そこから「間違いの連鎖」が起きていた可能性がありそう。
つまり、人から言われたことをよく検討せずにそのまま信じ込んで、それをベースに進めていくと根本の間違いに気が付かないことがある。相当進行してから或いは出来上がってから成立しないことに気づいても、手が打てなかったり膨大な手間やお金が必要になる。今回はそれが大規模かつ国家レベルになったものだったかも知れない。

なお、上記のスタンド免震化が弥縫策であることは由利氏記事で示唆されているが、実はZHAもヒアリングで以下のように言っている。ZHAは免震化に反対していたようである。
免震をやるべきかどうかということも、何度も議論してもらったが、結局構造的なメリットだけで決定された。
設計チームの構造検討は一体どうなっていたのかと思うが、このままだと検証されず解明されないまま闇の中。

----8月20日JSCが文科省に説明した複数案----
JSCが示した「新国立競技場の段階的コスト比較」の資料では、以下の複数案が示されたことが確認できた。
基準案 (22 万㎡、VE(Value Engineering)案はすべて採用) 総工事費1,358 億円
検討案1 (基準案+可動席) 総工事費1,464 億円~1,570 億円
検討案2 (検討案1+キールアーチ長さを戻す) 総工事費1,552 億円~1,746 億円
検討案3 (検討案2+可動屋根を戻す) 総工事費1,689 億円~2,020 億円
検討案3.5 (検討案3+立体通路を戻す) 総工事費1,861 億円~2,365 億円
検討案4 (検討案3.5+クラッディング範囲を戻す、駐車場200 台戻す、各施設の面積(29 万㎡)を戻す)
総工事費2,244 億円~2,748 億円
検討案5 (検討案4+可動ピッチを戻す、屋根の遮音性を考慮する。設備、音響仕様を戻す)総工事費3,031 億円~3,535 億円

追記以上