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基本構造再検証3 「スタンド免震」

⑦スタンド免震
<日経アーキの記事では、最終的にアーチトップを70mに抑えるために可変曲率の採用やアーチの傾きの調整「だけで」対応している、そこが「成立していた」根拠と考えます。成立していなければ、そんな小手先の調整では済まないはずですから。>(またろ氏)

→当方検証ではキールアーチ支持方法変遷について下表のようにまとめて考えています。「成立していたかどうか」については、10月23日記事で「AND条件」のことを書きましたが、キールアーチ支持が成立していないと「建てられる」という命題が成立しないと考えられます。
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この表の「支持成立」について当方見解は全部「?」にしました。「支持成立」をどのように判断するかが重要と思います。日経アーキ記事でキールアーチの検討の概要について以下のように書かれています。
<基本設計の初期から積極的に設計JVとの対話を図る一方、発注者であるJSCとは当初から意見の対立があった。建物の最高高さをめぐる調整では、JSCが設計側の妥協案を受け入れることはなかった。JSCの要求を実現するため、デザインの象徴となるキールアーチは曲率や傾斜角を調整し、幾つもの形状を検証した。>

まず皆さんにもご注意いただきたい件で、基本設計の期間についてZHAはヒアリングで以下のように述べています。
<基本設計を2つのステージに分け、基本設計の前半(平成25 年8月~12 月)はロンドンが主体で行い、設計JVもロンドンに来た。その後、基本設計の後半は日本側に移って続けた。>

つまり日本側はフレームワーク設計期間としている「2013年8月~12月」もZHA側は基本設計の前半としています。これはJSCが「財源の問題が片付かないと基本設計に入れない」と云うことでフレームワーク設計の名称にした経緯があり、実質はZHA側の認識が正しいのですが契約上の名称はフレームワーク設計です。

このような事情があるので、キールアーチの検討はNo2&3の段階で行われたと想定します。上表でNo2&3段階のキールアーチ支持は「スタンド」だったと考えられます。これを「支持成立」と見るかどうかになります。当方は?にしましたが、実態は「成立していない」と考えます。
その根拠の一つは、「実施設計でアーチタイを追加してアーチタイで支持するように変えた」と云うことです。基本設計の支持構造では問題があったということですから、成立していなかったと見ます。
もう一つは、スタンド免震化の問題で、それも含めて考えると、やはり成立していなかったのではないか。これは後で更に詳しく述べます。

結果的に、日経アーキ記事のZHA内山氏が述べた検討は、「支持構造が成立していないのにキールアーチの上側を色々検討していた」、つまり「表面的な辻褄合わせをやっていたに過ぎない」というのが当方の見解です。ここの見方の違いがあるようです。ただZHAに加えて大手の設計会社も集まってやっていたのですから、本来当方の見方は有り得ないのですが、今回は「有り得ないことが幾つも起きていた」からこそ前代未聞の事態になったと思います。

さてスタンド免震について検討。
8万人収容のスタジアムは日本初ですが、スタンド免震化自体も初のようです。世界でもスタンド免震は例がないと思われます。
別に日本初や世界初という称号が重要なのではなく、経験のないことはどのような問題が起きるか分かりません。技術開発においては同じような対象に見えても規模が違うだけで別の問題が起きます。新国立競技場も初が多い建築の割に、事前検討が少なすぎ途中段階の検討も場当たり過ぎたのが前代未聞の事態発生となった根本原因と考えています。
チャレンジは必要ですが何事にも限度があり、今回は幾つもの重要な問題をずるずる引っ張ったり弥縫策を繰り返した。

前置きが長くなりましたが、まずZHAビデオのスタンド図。
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基本設計書ではスタンド支柱ごとに免震装置を付けるような図になっています。それで以前も柱の数を概算してみましたが、実施設計も免震なので参考にこのスタンド図で再計算してみます。
A部本数=36x5(内側にも4本で1列5本とする)=180本、 A=C
B部本数=20x4(内側にも3本で1列4本とする)=80本、 B=D
A+B+C+D = 520本。物凄い?数です。

更にスタンドの大きさは概略以下の通り。
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免震構造自体は一般的に実績があるとはいえ、これだけ巨大で、かつ柱の多い構造で本当に成立するのだろうか。しかもキールアーチを含む屋根の鉄骨重量は約2万トンだそうで、それがスタンドの上に乗るし、風の影響も大きく受けることになります。免震化は当然工期に影響するでしょう。納期も含めて成立するかどうかの見極めが必要。
もちろん工費の問題もあります。あれだけ費用が問題になったにも係わらず、免震化コストが明確にされていませんでした。免震化によるコストアップは実質的にキールアーチ支持対応での増加で、キールアーチはコストアップ要因ではないという人達の見解も崩れてきます。日経アーキあたりが今からでもアーチタイとスタンドの免震構造検証をしてくれると良いのですが。

なおZHA案支持、或いはZHAにコストダウン仕様でやってもらえば良いという意見もよく見受けますが、その方々は前掲の表でどの段階だったら「アーチ支持成立していた」とお考えになるのだろうか。前述のように当方は全部成立していないという見解なので、ZHA+日建設計の設計は少なくとも今回のやり方では信頼不可と想定。
もし仮にやってもらうとしたら、何故これほど長期に渡って成り立たない設計を行ったか、詳細経緯説明が必須でしょう。特に支持構造は間違いなく変遷があったのだから、その理由や意図の明確化が必要。しかし、全くやる気は無さそうなのに、その人達に又やってもらえば良いという発想は不可解。

以上