kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

アーチタイ問題と建築家の方々

昨日[追記]で紹介した日経アーキ記事における構造専門家「西川」名誉教授のタイバー(アーチタイ)に関する指摘は、ザハ案評価における画期的意味を持つと思うので再掲。(昨日読まれた方は飛ばして下さい)
---再掲開始---
”建設費3000億円の試算でも無理はなかった---ザハ案はつくれたのか、構造専門家がみた施工の難題”(
西川孝夫・首都大学東京名誉教授)2015/10/15
キールアーチ下部の梁、いわゆる「タイバー」だ。アーチ構造は一般に、両端が足元で広がろうとする。これを抑えるためにアーチの下部両端を引っ張る梁が必要だ。ところがこの梁がコンクリート製で異例の大きさだった。恐らく1本の断面は5〜8m角になったのではないか。全長350m以上で5〜8m角の断面の梁となると、プレストレストを導入しなければ十分な剛性を確保できない。梁内のPC鋼材の数も、推測だが控えめにみて5列、5段で25本程度は必要ではなかったか。
 梁の中のPC鋼材はアーチ両端部で固定する。仮にPC鋼材が25本だったとすると、その両端の合計50カ所を固定することになる。しっかり固定しているところと、固定の甘いところとにばらつきがあると、コンクリートの梁にどのような現象が発生するか分からない。コンクリートの梁のなかで力がどのように流れるかが見えない。>
---再掲終了---

当方も既に本年7月29日記事[新国立競技場問題]真実発掘3 「タイドアーチ構造の課題」”の中で、「キールアーチとタイバー接合部」に大きな力が掛かる問題を記述。建築は門外漢だが、技術の基本として接合部分には問題が起きやすいところからの着目だった。
それから約二ヶ月半。「西川さん、構造専門家なのに遅いですよ!待ちくたびれました」と言いたいところだが、ようやく強力な援軍が現れた思いである。今後アーチタイ問題がもっと広く論議・認識されることを期待。

なお、西川氏は「プレストレス」のことを書いておられるが、アーチタイなので施工後も鋼材に張力のストレスが変動しつつ掛かり続ける。更にコンクリートで固められた状態で、どのような力の伝わり方をするのか当方の知識では不明だったが、同氏は<コンクリートの梁のなかで力がどのように流れるかが見えない>と書かれていて、専門家でも容易には分からない問題だと認識できた。それだけに施工するにも困難さがあるだろう。
なお基本認識として、アーチタイが弓矢の弦に相当するという考え方もあるが、フレキシブルなケーブルではなくコンクリートで固められてしまうと剛性が高くなって「弦」とは違ってくることなどにも注意が必要と思う。加えてスラスト対応だけでなく自重保持も必要。

また点検や補修の問題も有る。地下に埋設してからも含めた定期点検等を行うスペースはどうやって確保しておくのか。点検して補修の必要があれば掘り返す場合も出てくるかもしれない。また西川氏も懸念されている接合部は、アーチタイの内側部分で不具合が出たらどうやって補修するか。接続部や鋼材の劣化・損傷検査方法等も含めて難問が山積。それらを一つ一つ解決していくにしても、五輪納期に間に合うかという最大問題にぶつかる。

これほどの難題が有る上に、更にアーチタイの免震問題が根底にあるが、今回記事に免震の指摘はない(「またろ」氏は指摘しておられた)。しかし西川氏経歴を見たら、何と昨年まで「日本免震構造協会会長」だった。
首都大学東京名誉教授 西川孝夫(にしかわ・たかお)
1945年東京大学工学部建築学科卒業、68年同大学院博士課程中退後、東京都立大学助手に。85年に東京都立大学教授に就任。2005年首都大学東京教授(校名変更による)。06年同大学名誉教授。06年~14年日本免震構造協会会長
370mものアーチタイ自体が未経験で当然その免震も先例がない。設計JVはどのようにするつもりだったのか。また前述の点検・保守でも免震装置も対象にする必要が出てくるなど課題は更に広がる。

日経アーキは以下のように書いている。
<日経アーキテクチュア10月10日号特集「『新国立』破綻の構図」では、白紙撤回となった新国立競技場の旧整備計画から建築界が今後、生かすべき教訓を考察しています。>
教訓のために今後更に西川氏などによる「免震」指摘記事等も出る可能性は有りそう。是非出て欲しいが、まずは今回の指摘だけでもインパクトは大きい。

これでザハ案或いはZHA支持を表明しておられた方々は今後どうされるだろうか。西川氏指摘を無視するか、或いはザハ案肯定は黒歴史として無かったことにするか。なおザハ案やZHA支持は、例えば藤村氏など何故か中堅クラスの建築家の方々に多いように思えるので、将来を支えるはずの人達の人間模様としても興味深い。

また、大家と言われるような建築家や構造設計の大御所の方々などは、何故アーチタイという問題山積の弥縫策に対して見解を表明されて来なかったのだろうか(日経アーキと西川氏のように今からでも教訓のために表明していただきたい)。またアーチタイ追加しない状態ではアンカー等が必要で、森山氏指摘の地下鉄干渉等の懸念が出てくることも、建築界のベテランの方々には本来すぐ分かったことではないだろうか。ご存じの方も多いと思うが、2014年7月と9月にはJSCが建築関連団体に対して説明会を開催している。

7月の配布資料は基本設計書で、更に9月時点では日経アーキのアーチタイ入り記事も8月に出ていた。この説明会の際にアンカーやアーチタイの問題を建築団体から指摘して頂いていれば、ザハ案は「建てられない」ということが公式に理解されてストップが掛けられた可能性もあると個人的には考えている。その意味で建築関係者の責任は重い。ただし、設計JV、特に中心であった日建設計が設計専門家の矜持を持って基本設計が成立していないことを率直に説明し、ストップを掛けることが一番必要だったとは思う。
検証委員会は見直しを考えるべきだったタイミングとして2015年1月末頃と2013年9月から年末を挙げているが、当方は「2014年5月末基本設計完了以降の出来るだけ早い時期」を想定するのはこのような背景がある。

なお、早くから批判を展開されてきた槇氏は上記説明会に出席しておられないが、基本設計公表翌月の6月に行われたシンポジウムに出席しておられる。
主催:神宮外苑と国立競技場を未来に手わたす会 日時:2014年6月15日” 会場:日本建築家協会・建築家会館本館1階ホール
イメージ 1

この時は基本設計書を入手されていて、景観問題より先に、基本設計書の図にキールアーチを上書きして断面の巨大さなどを説明。しかし、アンカーの問題は出ていない。この頃に槇氏が気付いておられたら、影響力の大きさでストップも可能だったかも知れず非常に惜しかったと思う。

以上