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由利氏記事再検証5 「職人たちの奪い合い」

文藝春秋9月号記事紹介は今回で完了。対象とした技術系記述以外にも冒頭の政治的記述などがあるので全文は是非Kindle版でまとめてお読み下さい。
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職人たちの奪い合い
 総工費が二千五百二十億円にまで膨れあがった、語られざるもう一つの要因にも触れておきたい。
 巷間よく伝えられるのは、消費税率一〇%への引き上げやキールアーチの素材である特注鋼材の高騰、そしてここまで見てきたような種々の難工事の追加費用……。どれも紛れもない事実だが、思わぬ予算の高騰を招いた主要因は、深刻な人手不足だった。
 新国立競技場の建設に必要な建設作業員は、ゼネコンの試算でも延べ数百万人になる。これだけの人員を確保すること自体、そもそも極めて困難だ。ゼネコン幹部の話。
 「なかでも決定的に不足しているのは、建築物の骨組みをつくる型枠工と鉄筋工のような『職人』。労賃はこれまで日給二万円台で推移してきたが、今後、倍の四万円でも人は集まらないかも知れない。というのも、東北の復興事業に全国から建設作業員が動員されている中、都心で起きつつある民間ディベロッパーの建築ラッシュももうすぐピークを迎えるんだ。すでに職人の奪い合いが熾烈になっている」
 手元に、今後一年以内に発注される東京都心再開発プロジェクトの一覧表がある。新国立競技場の建築面積「二十二万平米」をはるかに凌ぐ民間工事が、これでもか、というほど相次いでいる。主なものだけでも、
①オフィス街の大手町再開発「二百万平米」
②東京駅八重洲口の再開発「百六十万平米」
国立印刷局跡地などの虎ノ門・六本木再開発「九十万平米」
④渋谷駅の鉄道各線の乗り入れ工事に伴う再開発「七十万平米」
 事情を知る国交省幹部は嘆く。
 「ようやく再検討推進室が七月下旬から動き出しましたが、秋以降に新デザインと業者の一括入札を行い、設計開始は来年一月でしょう。確保しておいた作業員たちを、いつまでも待たせておくことはできない。利益のいい民間工事が次々と発注されてくるから、そちらに人手が流れてもおかしくない。一度現場に入れば、彼らも途中で抜けられない。結果、新国立競技場に職人が集まらなくななくなったら、どうなるのか。二〇二〇年七月二十四日の開会式に間に合わない恐れがある」
 「白紙撤回」は国民の喝采を浴びたが、その決断はあまりにも遅すぎた。数百億円のコスト低減やわずかばかりの内閣支持率と引き換えに、「新国立競技場」は致命的な副作用に見舞われる危険をはらんでいる。
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⑭<思わぬ予算の高騰を招いた主要因は、深刻な人手不足だった。
→これが価格高騰の主要因と見るのは妥当性があるだろう。ただし、日建設計も業界トップの組織設計事務所として常にそのようなデータを収集分析していて当然。実際ヒアリング結果に基本設計段階で<日建設計の建物物価予測システム等を用いて、工事費を時点修正してみた>という記載がある。それにもかかわらずゼネコンと乖離したのは何故か?の検証が必要だった。
しかし、検証委員会は報告書や委員長会見で「時間や人員が足りなかった」・「見積り積算は専門的で難しい」などと言い訳して検証放棄したことを公言。委員会には専門家の古阪氏もいた。金額差が大きい項目に優先順位を付けて、設計JVとゼネコン2社の内容を突き合わせ同氏に検証してもらえば良い。時間が足りなくて充分な調査分析ができないというなら、義務ではないのだから検証委員や委員長に就任しなければ良い。
今回の件で「無責任体制」が言われるが、一番無責任なのは検証委員会だったという残念な結果。問題が起きた後の検証は緻密かつ的確に行って、教訓を活かせるようにしてもらいたいと思う。

⑮<「白紙撤回」は国民の喝采を浴びたが、その決断はあまりにも遅すぎた。数百億円のコスト低減やわずかばかりの内閣支持率と引き換えに、「新国立競技場」は致命的な副作用に見舞われる危険をはらんでいる。
→このような見解は余りにも型に嵌まったものと思う。例えば仮に安倍総理の決断が今からだったらどうなるか。ラグビーW杯で歴史的3勝をあげて多くの国民が次回日本開催を楽しみにするようになった。2019年に間に合わすことを放棄したら、その方が支持率低下だろう。金額による判断は状況によって変わることがある。
しかし技術的に無理なものは建てられない。その内幕を詳細な事実報道で明らかにしてくれた由利氏記事なのに、最後だけ紋切り型の政府批判コメントになっている。どうしてもそれで締めくくらないと落ち着かない別の人でもいて追加したものだろうか(笑)

以上