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検証報告検証5 「スパン250mキールアーチ」

昨日記事のスパン250mキールアーチは、当ブログ8月28日記事”ZHA反論ビデオと河野議員検証”でも取り上げたが、検証結果報告が出て河野氏当該ブログ内容と突き合わせることも可能になった(明日実施予定)。
本日はスパン250mが大体どれぐらいの大きさになるか、概略寸法比較を行ってみた。
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キールアーチの概略図が入っている実施設計図面に参考寸法を入れた。キールアーチのスパン寸法約373mは図から算出し、約250mはそれから換算して入れた。高さ寸法は元々入っていたが、アーチタイ下部からの寸法も参考に図から算出。
スパン250mでの検討案(昨日記事参照)は面積22万平米で、基本設計や実施設計も22万平米でほぼ同じのため、上図に示した水平方向寸法は大きく変わらないと想定され、実施設計図面でスパン対比可能と考えた。(アーチタイは本日内容には関係ないが、実施設計図面に入っているのでそのまま掲載)

上図を見ると、スパン250mでは丁度観客席の上部に両端が来ている。つまり両端は観客席上部で支持する構造と推察される。これでは耐地震性能やスタンド強度などに課題が出てくるだろう。
しかも、「屋根をスタンドではなくキールアーチで支えるので並行工事ができる」と云うZHAコンセプトからは完全に逸脱する。コンパクト化や開閉屋根の後付けなどと異なり、ザハ案とはもはや呼べなくなる。
このような案でも、徹底したコストダウン検討の中においては制約を外して出てくること自体は理解できる。しかし、スパン250mではなく370mが選択された後も影響が残ってしまった節が有る。その現れが当ブログ8月9日記事”「キールアーチ部に関するJSC資料記述」”で紹介した以下の図になる。
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この図について改めて考えてみる。まず前述のようにスタンドでキールアーチを支持する250m案は、もはやザハ案とは呼べないと云うことで、下図のように「似非ザハ案1」とする。スパン370mになっても両端支持構造が無ければスタンドで支えることになるので、同様に「似非ザハ案2」となる。これが上図と同等になり、2013年11月26日第4回月有識者会議のJSC資料に出ていることになる。

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似非ザハ案2に至ってしまった流れとして日建設計ヒアリング結果を加味し、次のような状況があったのではないかと現在推測している。
まず設計JVは2013年6月からフレームワーク設計を開始した。すぐにザハ案コストが高いことを予想し工事費算出を行った。日建設計ヒアリングでは次のように述べている。
フレームワーク設計が始まってすぐに工事費の算出作業をした背景は、デザイン競技で当選したザハ・ハディド案そのままだと要求1,300億円ではとてもできないと予想したことから、設計JVから問題提起したもの。(ヒアリング結果P28)>

案の定3000億円を超えたのでJSCと共にコストダウン検討に入り、8月には複数のコンパクト案を作成した。この中で似非ザハ案1も出てきた。
また、コスト面以外にフレームワーク設計で注力した点について次のように言っている。
<○ 本来であれば、基本計画の前に与条件が決まっているべきである。今回はこの与条件で本当に進めて良いのかについて、フレームワーク設計の中で検討し、並行して設計も進めた。
○ JSCと打ち合わせをして設計を進めるのは基本的に設計JVがやっていくことになっていた。JSCと設計JVとの間で話し合いをした内容については、ザハ・ハディド務所にワークショップで話をして、ザハ・ハディド事務所から意見を伺っていた。ザハ・ハディド事務所は、日本とロンドンに両方チームがあったので、日本チームからロンドンチームに投げかけたり、ロンドンチームが日本に来たりということをしていた。
○ また、日本のチームが逆にロンドンに行って、ロンドンで作業を行っていた。平成25年10月から12月ぐらいまで10人ほど設計JV側がロンドンに行っていた。
ザハ・ハディド事務所の役割はデザインスーパーバイズだったが、一緒にやっていくという感じだった。ザハ・ハディド事務所は、屋根のデザイン以上に、スタジアムの性能を決めるボウルのデザインを主体的にやろうとしていた。
○ 8万席という与条件はJSCから言われていた。どんな設計与条件で8万席を入れるのかが一番のポイントであった。座席の横幅の寸法を縮めれば8万席入るが、北京オリンピック・パラリンピックと同じ席幅だと8万席取れないということであった。ザハ・ハディド事務所が一番主張したのは、席幅を何センチに設定するのかということだった。
客席の断面構成を3段にしないとこの敷地の中に8万席入らなかったが、今度は最高部の高さが高くなってしまう。高さ制限の70メートルの中に入れた上で、可能な限り周囲への圧迫感を抑え、さらに日影の問題も解消しなければならず、座席の幅と客席構成と高さの調整作業は、フレームワーク設計のかなりの作業時間を占めていた。
○ この作業は、ザハ・ハディド事務所だけに任せていたわけではなく、設計JVも、同時にボウルの検討をしていた。互いに、国際標準に照らしたときはこうあるべきというのを自分たちなりの案を作って、調整しながら一つにまとめるというのがフレームワーク設計のワークショップだった。(同)>

設計JV(特に日建設計)は、基本的設計条件の確認から始まって、コスト問題・収容8万人実現及びZHAとの調整等に時間を費やし、キールアーチ支持構造が含まれる「基礎構造」検討が疎かになった、或いは手が回らなかった状態が続いたのではないだろうか。そのままフレームワーク設計の終結を迎え、第4回有識者会議に「似非ザハ案2」と同等の図を出すに至ったのではないか。
ただし、業界トップの組織設計会社で構造設計を得意とする日建設計では考えられない話と当方も思うが、今の所これが一番辻褄が合う仮説と考えている。
更に基本設計においても両端支持構造なしが続いたことも、当方再検証で明らかになって来たので別途紹介するが、その前に改めて重要性を増した河野氏ブログ記述について明日詳細を見てみる。

以上
[追記]
スパン250mのように観客席上部だけのアーチも「キールアーチ」と呼ぶかどうかは以前から確証が得られず、未だ明確な定義が見つからない。ただし、検証報告書で「キールアーチ長さを戻す」となっていて、「キールアーチのスパンを250mから370mに戻す」と解されるので、観客席上部だけの250mスパンも当面「キールアーチ」としておく。

追記以上