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検証報告検証4 「1,625億円に至る経過」

昨日記事で1,625億円を起点とする見積り金額の考察を行った。本日は1,625億円が出てきた経過の話。
ザハ案がコンペで選定され、設計JVが入って見積もった結果がJSCに報告された。
フレームワーク設計が開始された約1ヶ月後の(2013年)7月上旬には、設計JVから、JSCの藤原理事(当時)に対して、「1,300 億円には収まらず2,000 億円を超えてしまう可能性がある」旨の報告があった。さらに、同月30 日には、ザハ・ハディド氏のデザインを忠実にかつ有識者会議のWGから出された要望を全て取り入れた場合、3,535 億円となるとの試算額が設計JVからJSCに伝えられた。(検証報告書P19)>

これに対して文部科学省側からは大幅なコスト削減の指示を受け、7つのコンパクト案が検討された。
-------検証報告書P20引用開始-------
JSCと設計JVは、平成25 年8月、ザハ・ハディド事務所との間で3回打ち合わせを行い、コスト削減を含めたフレームワークの見直しを検討した。その後、設計JVは、設計や工法について機能等を下げることなく代替案を探り、28 のVE案を検討することにより全体予算を約1,350 億円から3,540 億円までの間で調整することができると報告を行った。
基準案 (22 万㎡、VE(Value Engineering)案はすべて採用)総工事費1,358 億円
検討案1 (基準案+可動席) 総工事費1,464 億円~1,570 億円
検討案2 (検討案1+キールアーチ長さを戻す) 総工事費1,552 億円~1,746 億円
検討案3 (検討案2+可動屋根を戻す) 総工事費1,689 億円~2,020 億円
検討案3.5 (検討案3+立体通路を戻す) 総工事費1,861 億円~2,365 億円
検討案4 (検討案3.5+クラッディング範囲・駐車場200 台・各施設の面積(29 万㎡)を戻す)
       総工事費2,244 億円~2,748 億円
検討案5 (検討案4+可動ピッチを戻す、屋根の遮音性を考慮する。設備・音響仕様を戻す)
       総工事費3,031 億円~3,535 億円
-------引用終了-------

これは日建設計ヒアリングの以下の話と対応する。
<・28 項目のVE提案を出して、どれを組み合わせたら、1,300 億円に近づくかというという提案をした。(VE案を反映させた)基準案を1,350 億円に置いた。基準案はキールアーチのスパンを250m、開閉式遮音装置無し、立体通路無し、可動席無し、可動ピッチ無しという条件とした。基準案に対して、可動席を復活させれば1,570 億円、更にキールアーチのスパンを350m(当方注:実際は370mと思われる)に戻す1,740 億円更に開閉式遮音装置を戻すと2,020 億円、更に立体通路を戻すと2,740 億円、更に可動ピッチを戻すと3,540 億円というように、複数の選択メニューを出して、その中でどうするか問い掛けをさせていただいた。(ヒアリング結果P29)>

何と「キールアーチのスパン250m」という話が出ている。しかし、最終的にフレームワークでの設計はキールアーチスパン約370mになった。(250mスパンについては明日検討)
検証報告書ではどの案が採用されたか書いてないので、どれが採用されたのか検討。
まず基準案と検討案1はキールアーチ250mで除外。検討案2は可動屋根なし、4及び5は、29万㎡のため除外。
3と3.5で、結果的に検討案3.5が可動屋根と立体通路を有し採用されたと考えられる(ZHA反論ビデオに立体通路=スカイウォーク有り)。総工事費は1,861 億円~2,365 億円。(なお、検証報告書「基準案~検討案5」の内容と日建設計ヒアリングで合わないところがあるが、ヒアリング記述は要約であるため、ここでは詳細な検証報告書の方を基本としている)

以下のJSCによる文科省報告は、案3.5から更にコストダウンが行われた金額がベースになったと想定される。
<開催都市決定の同時期には工事費に係る議論が継続されており、9月13 日には藤原理事及び山崎設置本部長が山中事務次官1,868億円の案を相談したものの、更なる工事費縮減の指示を受けた。同月下旬には、山﨑設置本部長が今里課長に1,852億円という金額を報告した。この案は3,535 億円のものから延床面積を29 万㎡から22 万㎡に縮小、可動ピッチの中止等がされたものであった。他方で、増加要因として、建築費高騰対策、駆体工場生産化などがあげられた。(検証報告書P21)>

第4回有識者会議でも報告された。
<11 月26 日には、JSCは、第4回有識者会議を初めて公開で開催し、基本設計条件案を報告した。工事費については、1,852 億円とされているが、この時点では政府との調整が終了していなかったため、当該額については政府と引き続き調整する旨の説明がなされた。(検証報告書P22)>

更に文科省との協議で1,632億円になった。(以下の 1,699億円 -  解体費67億円 = 1,632億円)
この際の縮減は「周辺人工地盤の構造・仕上げの見直し等」(工事費変遷表)。
文部科学省では、上記JSC案について、工事費を財務省と精査・協議し、12 月下旬に1,699 億円(本体工事費1,395 億円、周辺整備費237 億円、解体工事費67 億円(平成25 年7月時点の単価、消費税率5%))として、政府内関係者への説明を行った。(検証報告書P23)>

自民党PTとの調整で、もう7億円削減され1,625億円になった。縮減は「蓄熱システムの見直し」(工事費変遷表)。
自由民主党行政改革推進本部無駄撲滅プロジェクトチーム(以下、無駄撲滅PT)との調整も始まり、11 月28 日にはJSC及び文部科学省ヒアリングを受けた。そして、12 月19 日、12 月27 日のヒアリング等を踏まえ、新競技場の工事費が1,625 億円(平成25 年7月時点の単価、消費税率5%)に縮減された。(同)>

資料から見ると、このような経過だった。

以上
[追記]
毎日新聞が20123年10月に最大3000億円と報道」というのはよく出てくる話であるが、実際の記事は次のようになっていた。
<2020年の東京五輪パラリンピックの主会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の総工費が、見込みの1300億円から最大約3000億円まで膨らむ可能性があることが分かった。収容人数を増やすための大型化や独特のデザインの採用が響いたとみられ、政府は、新競技場の規模見直しなどコスト削減の検討に入った。・・・
試算は、競技場の床面積を約22万平方メートルに縮小すると、総工費は約1800億円に減るとした。

記事本文では「試算は約1800億円に減る」と書いてあって、8月時点での検討を10月にスッパ抜いたものと考えられる。しかし、最大3000億円報道は国会で追求され下村大臣が以下の答弁を行った。
<10 月19 日には、毎日新聞が新国立競技場の工事費が最大で3,000 億円になると報道し、その後の23 日には、下村文部科学大臣が国会で、このことについての事実を確認されたため、「最優秀作品となったザハ・ハディッド氏(原文まま)のデザイン、それをそのまま忠実に実現する形での経費試算は約三千億円に達するものでございまして、これは余りにも膨大な予算が掛かり過ぎるということで、率直に申し上げまして、もう縮小する方向で検討する必要があると考えております。デザインそのものは生かす、それから競技場の規模はIOC基準に合わせますが、周辺については縮小する方向で考えたいと思います。」と答弁した。
なお、ヒアリング対象者からは、この報道を受けた国会での審議が行われるまでは、下村文部科学大臣に対して、工事費が最大で3,000 億円になるという情報は、報告されていないことを聴取した。(P21,22)>

このことから分かるのは、少なくとも2013年10月の下村大臣答弁に至った経緯自体は、直接同大臣の責任になるような話ではなかった。また記事本文の「1800億円に減る」は抜かされて見出しの「最大3000億円」だけ切り取られ、今も語られる場合がある。「如何に真実が伝わらないか」の実例にもなっている。

追記以上