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ZHAビデオ論点3,4 標準的橋梁建設技術との比較

ZHAビデオ論点整理の続き。

”論点3:横風・地震対応”
ザハ側がビデオの前に公開した声明文が有り、「アーチは標準的な橋の建設技術を使用」と書かれている。
<このアーチは複雑なものではなく、標準的な橋の建設技術を使用し、軽量で丈夫な樹脂製膜の屋根を支えて全スタンドを覆うものです。>

実際には、本プロジェクトのキールアーチは全スタンドを覆うために下図のようになって普通の橋のアーチの姿とは大きく違うものになる。
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もしかするとザハ側はキールアーチとクロスタイなどの基本部分が標準的技術と云うのかも知れない。しかし、アーチに付随する部材も当然アーチ構築には影響するから、それらが普通の形状と異なれば標準的な橋の建設技術では対処できない場合が出てくる。
上図から想定される「標準的な橋のアーチとは違う条件」を挙げてみる。
 (1)上部の面積が大きい…普通の橋のアーチより風受け面積が格段に広い、日本には台風有り
 (2)上部が重い…長大なスカイブリッジまで支えている、地震の影響が懸念される

基本設計説明書の「サイドストラット」には、「キールアーチとスタンドを結ぶ部材。地震時や風荷重時にキールアーチに生じる力を受け止め、スタンドに力を流す」と書かれている。
まず、「キールアーチとスタンドを結ぶ部材」と云うことは、キールアーチとスタンドは結ばれていることになる。しかしZHAビデオにある「屋根はスタンドではなくキールアーチで支える」と云う説明で考えると、屋根とスタンドは直接結ばれていないと想定される。また上図ではサイドストラットはスタンドではなくスカイブリッジと結ばれている。基本設計時の説明との比較では矛盾頻発である。実施設計の正式図面でのチェック必要。

余りにも矛盾が多いので、その次を考えてみる。「地震時や風荷重時にキールアーチに生じる力を受け止め、スタンドに力を流す」。これが上図の横風や地震の話になってくる。横風で考えると、風を受けて反対側に倒れこむ力が生じる(キールアーチ下部はアーチタイで固定されているので回転力のようになる)。
これをどう受け止めて倒れ込みを防ぐかということになる。単純にはスタンド外周で横方向の力を受けることが考えられるが、外周はスカイブリッジになっていて、その外側にスタンドはない。
ZHAビデオで、スカイブリッジ部のCGがある。スカイブリッジとスタンドの接続箇所候補は点線丸内が考えられるが、どれも力を受け止められる強固な構造が有るようには見えない。

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昨日記事のJSC資料は「キールアーチの構造的な負担を客席部の構造体が一部負担する」となっている。「一部負担」が横風や地震時におけるキールアーチの負荷軽減の意図だとすると、スタンドに力を伝える部分が実際に有ると想定される。ただしフレームワーク設計時資料なので、その後の変更は有り得る。この辺も正式図面で設計を確認する必要がある。

”論点4:アーチタイ保持構造”
以前紹介した橋の写真を再掲。
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これをアーチタイ付きアーチ橋としてザハ案との比較を行い、ザハ案が持つ「標準的な橋とは違う条件」を論点3からの続き番号で列挙。
 (3)アーチとアーチタイ間の「吊り材」がない
 (4)橋脚が無くて橋脚間の空間もない
 (5)アーチタイは外箱(鞘)付き

まず(3)であるが、上掲写真の橋のアーチタイにあたる部材は、上方に反っているようにみえる。これはアーチから吊り材で引っ張り上げているためと考えられる。ザハ案のように吊り材がなければ、アーチタイが重いので上側に反ることはなく、下側に垂れる方向と考えられる。その状態でキールアーチのスラスト力との釣り合いになる。スラスト力があっても鉄筋コンクリートのアーチタイはゴムのような弾性体ではないので、約370mもあって相当な自重があるアーチタイが一直線にピンと張った状態を正確に保つとは考えにくい。釣り合い状態ではアーチタイは下側に垂れるのではないか。
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その際(4)において普通の橋には橋脚があり、橋脚間の空間も有る。アーチタイは橋脚と接する部分のみ保持すれば良い。しかし、ザハ案では橋脚が無く、橋脚間の空間に相当するフリースペースも無いため、アーチタイが下側に垂れた際にどうやって保持するかと云う問題が出てくる。
まず考えられるのは、アーチタイは上から見ると長方形をしているから、頂点の4点で支持することが考えられる。だが、橋と違って頂点以外の4辺部分も地面(穴底面…下図参照)があるから、アーチタイが垂れ下がると穴底面に当たってしまう。どう保持するか。
更に実際にはアーチタイ(タイバー)は実施設計の断面図によると、外箱(鞘)に入って埋設される構造になっている。鞘(さや)を保持する基礎も考える必要がある。ZHAビデオでアーチタイの構築工程を示す簡単な図が有り、鞘を保持する基礎構造と思われる描写がある。
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鞘の中でアーチタイが垂れ下がると、鞘に接触するから、これも保持方法を考えておく必要がある。保持を行うと、免震構造が基本設計の仕様に入っているから保持部に免震装置が必要になると考えられる。保持部は一体何点必要になるのだろうか。
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結局アーチタイに関しても論点3と同じく実施設計の正式図面で確認する必要が有るが、少なくとも「鞘付アーチタイ」という普通の橋では考えられない構造になっているにも係わらず、「標準的な橋の建設技術で構築可能」と云うザハ側の主張は、現実との大きな乖離があると言わざるを得ない

以上
[追記]
実施設計においては、技術協力契約とは云え実質的にゼネコン側で設計を行った部分も多いと思われる。だが、「正式図面が出来ていないのではないか」という声も聞かれる。「鞘付きアーチタイ」と云う特殊構造で、しかも約370mと長大であり、施工可能な図面が出来ていたか検証必要。また本来の着工は今年10月が予定されていたが、その何ヵ月か前(4ヶ月?)には着工申請を出す必要があると思われるが、白紙撤回前の7月16日時点で申請済みだったかどうかも要確認と思われる。(着工出来なかったから白紙化したという可能性も高いため)

追記以上