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取調問題と刑事訴訟法違反

本日は今回の事件の捜査の中でも大きな問題と考えられる「取調が殆ど行われなかった」という件についての考察。
まず「取調受忍義務」という話がある。Wikiを引用する。
”身柄を拘束されている被疑者について、このような義務が法律上存在するか否かについては争いがある。概ね検察・警察実務は取調受認義務を認めているが、学説は種々にわかれている状態である。”

受任義務が存在するという論理は当方も検証してみたが相当無理がある。
詳細は省略するが、法律が取調出来ない場合を特に想定してないから条文に書いてない可能性があるのに、「取調を拒否できると書いてないから受ける義務がある」というような非常に強引な論法である。

更に昨年3月5日のぶら下がり会見で佐藤氏が明らかにしたところによると、同日の弁解録取で被疑者が「録画がされれば、取り調べに応じる」と言ったら、検察官は「そういう義務はない。法律でそうなっていない。違反しているのは君だ」と言ったそうである。
この「違反」というのが、取調受忍義務違反を指していると想定できる。

しかも、それを裁判所も認めてしまっているようである。
”身体拘束中の被疑者には取調べ受任義務があること”

それで当方として次の様な角度から考察してみた。
仮に被疑者に取調受忍義務があるとして、訴訟というのは本来結果が出るまでは対等なはずだし、刑事事件では特に推定無罪原則がある。
一方的に被疑者とされた側だけにそのような強力な受任義務があるのはおかしいのではないかと考えた。

調べてみると、対抗できる規定がちゃんとあった。しかも「刑事訴訟法第一条」である。
<第一条  この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。 >

この中の「事案の真相を明らかにし」という部分に注目。
以下は警察の資料であるが、冒頭に真相解明と取調の関係がちゃんと書いてある。
”我が国の刑事手続において、被疑者の取調べは、事案の真相解明に極めて重要な役割を果たしていることは、論を俟たないところである。”

最高検察庁の「検察の理念」にも”事案の真相解明が不可欠”と書かれており、そのためには警察と同様に取調が極めて重要な事は明らかである。

これらから何が言えるかというと、「本事件の起訴は刑事訴訟法第一条に違反している」ということである。
刑事訴訟法第一条に、「真相を明らかにし」と書いてあるのだから、それは刑事訴訟を行う検察・警察の義務となる。
被疑者に取調受忍義務があると検察・警察が主張するなら、真相を明らかにするために極めて重要と自らが認めている取調を行う義務はより重く受け止めて確実に実行するのが当然である。

なお、更に補足として捜査終結時の次席検事の記者会見を引用するが、ハッキリ言って詭弁や言い訳の塊のように思える。
”録音録画については、現在検察庁の試行対象事件は決まっていて、この事件は対象ではない。ただし、法制度上は(録音録画は)可能。本人の弁解は弁録や勾留理由開示公判など聞く機会はあった。我々は聞く姿勢は常に持っていた。弁解があるなら言って下さいという態度だった。被疑者は取り調べ受忍義務があるが、留置場の房から引っ張り出して(取り調べを)やるか、ということについては、誤認逮捕の4人の中には自白の強要があったんじゃないかと言われているものもあり、客観証拠に重点を置いた」”

検察庁の内部規定(録音録画の対象範囲)より、当然刑事訴訟法の方が優先する。
その上で「法制度上は(録音録画は)可能」と言うのだから、内規に例外作るか、検察官の個別判断などで対応すべきであろう。
つまり、受任義務はあったとしても、「内規に沿った受任義務がある」とは法律に書いていないのだから、被疑者側は「録画すれば取調に応じる」との言明により義務履行意志を宣言したことになり、それでも内規を盾に取調を行わなければ、それは検察・警察の責任範疇になる。
しかも、今回弁護側は録音だけで良いと言ってる。足利事件で録音が行われていたという事例もある。
また、「我々は聞く姿勢は常に持っていた」と言ってるが、何度も開かれた勾留理由開示公判で弁護側が勧めたにも関わらず検察側の質問は一切無し。これでは取調の代替には当たらない。

ただし、色々な事情で「内規優先」という判断もあっても良いだろうが、その場合は遥かに上位規定の刑事訴訟法に反することになるので「起訴をしない」という選択なら整合性は取れる。
しかし、内規優先で取り調べせずに起訴したなら、真相解明を求める刑事訴訟法第一条違反である。
これが当方の考察した結論になる。

個人的には、弁護側は「刑事訴訟法第一条違反で公訴棄却を求める提訴」を行なって、内規優先で真相解明に必須と思われる取調を殆ど行わないままでの起訴が有効なのか、最高裁までいってでも確認して頂きたいと思う。
(もちろん黙秘なら取調出来なくても止むを得ないが今回はそうではない。又検察側は「間接事実の積み重ねによる証明を余儀なくされている」と明言しているのに、本人への確認が無い間接事実では証拠能力は疑問)
提訴中は裁判を中断して、最高裁が有効であると判断してから再開すれば良い。
こんな異常と思える起訴の仕方での裁判をそのまま行なっていくことに裁判所は疑問を持たないのだろうか。今後もこの点は公判で注目していきたい。

以上