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検察捜査終結時における記者会見での次席発言再考

昨日稲川氏の講義内容をご紹介した。
その中でも書いたように、稲川氏は東京地検次席検事(当時)として6月28日に捜査終結を受けての記者会見を行なっている。
講義内容を見て稲川氏の見解の一端が見えてきたので、記者会見での発言も再考察してみた。

記者会見内容は江川氏の詳細記事がある。江川氏は本事件で記事を適宜発信し続けていて非常に参考になるが、この記事も貴重な情報である。
記事中で発言が引用されているのは殆どが稲川次席のもので、捜査責任者であったことが窺える。
ただし、他の主任検事が必要な情報をささやいたりしていたということで、立件実務は当然主任検事以下が努めたのであろうが、地検No.2として重要事件の指揮をとるのは次席検事の役目だからこそ記者会見の前面にも出てきたということであろう。その人の発言は重要である。

 ”【PC遠隔操作事件】捜査終結。裁判に臨む検察の陣容は、まるで大疑獄事件?!”

この記者会見は突っ込みどころ満載に思えるし、江川氏も記事で色々指摘している。
また、「予断と偏見を持たずに証拠を見れば・・・」の部分は、以前佐藤弁護士が「それは弁護側のセリフ」と会見で切り返していた。
当方としての観点からも、記事引用が長くなるがポイントと考える点を記す。(以下<>内は記事引用、→以降が当方考察)

①犯行場所とPCの特定
  <今回の追起訴でも、犯行の場所は「東京都内又はその周辺」、使われたPCは「被告人が使用するインターネットに接続されたコンピュータ」としか書かれていない。
   今後、公判前整理手続きや裁判で詳細を明らかにする用意があるのかどうか、何度問われても、稲川次席は「具体的には差し控える」として明らかにしなかった。 
   その稲川次席自身、「公訴事実は起訴状でできるだけ特定する。(犯行場所などは)起訴状で明らかにするのが望ましい」とも述べており、こういう曖昧な表現にとどめざるをえないのは、彼自身、本当は忸怩たる思いなのだろう。> 
  →「公訴事実は起訴状でできるだけ特定する」と、ここでも稲川氏は筋の通ったことを言っておられる。
    その本来の筋通りにやれてないのだから、今回の起訴や裁判の有効性が問われてくると当方は感じている。

②ウィルス作成罪
 <ウイルス作成が立件できなかったことについては、「今ある証拠から立証が可能だということで、供用罪を選んだ。確実に立証できるものを選んでいる。第三者のPCを通じて犯行を行った、という点にスポットを当てた」と苦しい弁明。片山氏がウイルスを作成した証拠の薄弱さを認めた格好だ。 >
 →当時は報道でも「ウィルス作成罪立件せず」が大きく取り上げられていたが、今になってみると検察側が出してきている犯人性の根拠は江の島のような間接的なものを除くと、「派遣先PCにiesys.exeの痕跡があった」、「同僚PCにもあった」、「保存したフォルダの痕跡があった」、「C#で作ったプログラムを同僚が受け取った」、「ウィルス(トロイ)作成想定期間は本来業務に殆ど従事していなかった」など、ウィルス作成に関するものが多い。
  逆にウィルス供用罪立証につながるドロップボックスと派遣先PCとのつながりも掴んでいる可能性はあるが、それはFBI捜査によるものと思われ、佐藤弁護士も言っていたように法廷でFBIの捜査方法を示すことは米国の機密になるから困難と考えられる。
  よって、今や検察側として立証しやすいのは供用罪より作成罪の方と思われる。しかし、捜査終結で記者会見したわけだから、その当時と今で証拠は基本的に変わっていないはずである。
  つまり、当時から検察側の主張はウィルス作成を示すものが主体であったのは明らかで、なぜ作成罪の方が立証しにくいようなことを述べたのか不可解な話である。

③録音をめぐる不明朗
<本件の捜査では、片山氏側は録音もしくは録画を行えば黙秘権を行使せずに取り調べに応じるとしたのに、捜査機関がそれを受け入れず、結局途中から取り調べができなくなった。
  取り調べは自白を求めるためだけに行われるわけではなく、被疑者自身からできるだけ多くの情報を引き出し、客観証拠と照らし合わせるなどして、検察の見立てを補強したり修正したりするためでもある。それを行わなかった理由や結果について尋ねると、稲川次席は以下のように語った。 
  「録音録画については、現在検察庁の試行対象事件は決まっていて、この事件は対象ではない。ただし、法制度上は(録音録画は)可能。
   本人の弁解は弁録や勾留理由開示公判など聞く機会はあった。我々は聞く姿勢は常に持っていた。弁解があるなら言って下さいという態度だった。
   被疑者は取り調べ受忍義務があるが、留置場の房から引っ張り出して(取り調べを)やるか、ということについては、誤認逮捕の4人の中には自白の強要があったんじゃないかと言われているものもあり、客観証拠に重点を置いた」 
   これでは回答になっていない。弁護人は検察官の取り調べについては、録画までしなくても録音さえしてくれれば応じると提案したのに、検察側から拒否されたために取り調べに応じられなかった、としている。
   客観証拠に重きをおきつつ、録音を録って取り調べをするという選択もあったのではないか。そう重ねて問うと、稲川次席はこう言った。 
   「我々は録音してない、とは言っていません」 
    ・・・
   聞かれたことに答えず、聞かれてないことを述べるちぐはくなやりとり。稲川次席は、別の記者の質問にも、やはり聞かれてもいないのに、「録音していない、とは言っていない」と繰り返した。
   実際に録音したかどうかは、「弁護人が証拠開示請求するだろうから、その過程で明らかになる」と言葉を濁した。
    ・・・
   ただ、弁護側がすべての場面における録音を開示するように求めたのに対し、検察側は「録音は存在しない」と文書回答している。
   本当に存在しないのだとしたら、稲川次席の思わせぶりな発言は何なのだろうか…。>
   →ちぐはぐすぎるやりとりで、その原因が次席の回答のあやふやさにあるのは明らかである。 
   江川氏記事前段の方で、次席はIT捜査についてもどの程度理解しているか不明なような回答もしているし、司法機関の要職がこんなことでいいのだろうかと不安になる。
   ただ,当方個人的印象としては稲川氏は「いい人」のように思えてしまうし、検察が本来やるべきことについても的確な認識を持っておられるように前記事の講義内容からは感じる。
   しかし、それが実際に生かされているとはとても云えないと思う。
   主任検事以下も講義内容のようなことは当然知っているのだから、誰かが正すことは出来なかったのだろうか。
   組織に縛られて動けなかったというなら残念な話である。これでは企業犯罪など摘発する資格があるのかということにもなってしまう。
   本事件は本当に色々な問題点を炙りだしてくれる事件である。

以上が6月28日検察側記者会見での次席発言に関する改めての考察である(まだ考察し足りない所もあるが)。

さて、9月19日は平場の議論が行われる予定でそれを受けての弁護側記者会見のビデオが昨日出てくるかと期待していたが、江川氏のツイッターを見ても言及がないようである。
24日に公判前整理手続が行われるので、それを併せて会見があるのかもしれない。
それらの情報が出てくるまでは、検察側対応について今度は起訴時の問題点を明日以降取り上げる予定。

以上