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本事件の検察責任者だった方の考え方が分かる講義記録

本事件逮捕から捜査終結当時までの期間、東京地検次席検事であった稲川氏が甲府地検検事正時代に山梨学院大学で行なった特別講義の内容があったのでご紹介。
稲川氏は捜査終結の記者会見も行なっており、本事件立件当時の検察側実質最高責任者であったと云える方の「公判前整理手続の実務 」についての講義であるから貴重な資料と思う。
(裁判員裁判を前提とした公判前整理手続の話であるが、裁判官による裁判でも公判前整理手続の基本的考え方は同様と考えられる)

この講義の経緯説明は以下にある。
   ”特別講義~甲府地検稲川検事正を迎えて~”

講義の内容は以下URL中にPDFファイルのリンクが有る。
   ”山梨学院ロー・ジャーナル 第6号”
   ■特別講義(講演)
   「稲川龍也  公判前整理手続の実務 」

講義の内容で、当方が特に注目したのは以下の2点。

①証明予定事実記載書面の提出時期
  P132(pdfファイルのページ、以下同様)
  ⑵ 公判前整理手続の遅延問題と解消策
  ・・・
  P133
  検察側は、原則として起訴後2週間で証明予定事実を提出することにしました。」

  →本事件では最初の起訴が3月22日で犯人性まで記載した証明予定事実記載書面が出たのが7月10日。
    3.5ヶ月以上もかかっており、講義内容と余りにも差がありすぎる。

   検察側の言い分は「捜査が継続していた」ということになるだろうが、
   例えば監視カメラ映像の証拠開示は他の犯行の捜査にどのような影響を与えると考えられたのか。 
   もう捜査は終結しているのだから、今なら当時の想定を説明できるはずである。
   稲川氏が述べている2週間程度、或いは難事件で時間が掛かるにしても例えば倍の1ヶ月程度で、
   証明予定事実記載書面(当然犯人性も記述のもの)や監視カメラ映像などの証拠を何故出さなかったのか、弁護側は説明を求めても良いと思う。

   検察側が納得性のある説明を提示できない場合、被告の防御権を侵害する意図的遅延とも捉えることが出来て、裁判の有効性に影響を与える可能性がある。
   (証明予定事実記載書面の三部作化も何故許されるのか不明で遅延工作認定していいぐらいのレベル)
   
   実際これほど遅らされたのでは、例えばアリバイ立証が証言者の記憶薄れや立ち寄り先監視カメラ映像保管期間の問題などで困難になるような事態も考えられる。
   当時の捜査責任者が、自らが明言していた証明予定事実記載書面の迅速な提出の必要性を踏みにじったのは大きな問題と受け止めるべきと思う。

②弁護側予定主張の提出時期
  P120
  ⑶ 主張関連証拠の問題
  ・・・
  「主張関連証拠というのは、少なくとも検察官が証拠請求する証拠とそれに関
  連する証拠の開示を受けた段階で、そこまで証拠を見た上で被告人と十分打合
  せを行えば、公判でどのように争うか、争わないのか、一定の主張はできるで
  しょうからまずそれをはっきり明示してください。・・・」
  ・・・

 →これは、最初の部分の「少なくとも」が重要である。
 稲川氏は検察側の考え方を代弁して以下の趣旨を言わんとしていると理解できる。
 「少なくとも検察側が(主張と)証拠を明らかにした後には、弁護側も主張を明らかにして下さい」

 手続きの順序の話であるから、この場合の「少なくとも」は「遅くとも」と読み替えることが出来る。
 「遅くとも検察側が(主張と)証拠を明らかにした後には、弁護側も主張を明らかにして下さい」

 ポイントは、遅くなる方を指摘していて早い方には触れていない。
 司法手続だけでなく、一般的にも早く主張を出すのはむしろ望ましいと捉えられる。
 例えば、国会で野党がいつも「与党側の案が出てこないから議論ができない」というようなことを言って引き延ばしを図ることがあるが、
 「野党側に良い案があるのなら先に出して議論始めればいいんじゃないか」と一般の人は思うだろう。

 その点で稲川氏の発言趣旨は、「少なくとも与党案を出した後は野党案も出してください」と言ってるのと同じと受け取れる。
 この場合、野党案を先に出すことを妨げるものではないし、むしろ野党側に案があるなら是非出してくださいということになるだろう。

 ここまでは稲川氏の話は筋が通っているのだが、今回検察側が予定主張に関して弁護側に言っていることはそれと逆である。
 検察側の証明予定事実書面提出や証拠開示の前に弁護側が主張を提出しても、予定主張とは認められないと言い張っている。

 与党が野党に対して「与党案を出してない段階で出てきた野党案は案(今回の場合は予定主張)と認めない」と 云うことである。
 こんな理屈が通らないのは当然で、裁判所も予定主張と認めると言った。

 余りにも稲川氏の講義内容と違うことを、稲川氏が率いていた検察陣が言っている。
 しかも弁護側が早く出したのは、前項で述べたように検察側の証明予定事実記載書面の提出や証拠開示の遅れを察知して出来るだけ先手を打ったものだろう。
 稲川氏は7月の人事異動で栄転されたようだが、立件時の責任者として法廷に出てでも、筋の通った講義内容に反するような今回の検察のやり方について説明を行う責任があるように思う。
 それほど今回の検察の対応には基本的な問題が多いと当方は捉えていて、稲川氏の講義内容と実際の進め方の大きな乖離はそれを証明する端的な一例であると感じる。

以上