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本事件と黙秘権

昨日は、「首輪装着時間帯を5分に狭めた証拠は重いが、肝心の遠隔操作証拠不十分で、トータルでは弁護側有利ではないか」という現時点での見方を書いた。

更に、当方が検察側不利と感じる理由の中に、これまで再三述べているが「取調」を行なっていないという点がある。
今回の事件は遠隔操作のアクセスログ等の直接的証拠が示されていないので、状況証拠がポイントになるが、被疑者確認が行われていない状況証拠は不確定な部分が多くなってしまう。
被疑者に確認してみないと、その状況証拠が本当に有効なものかどうかわからない。

このように本事件では本来取調が重要と思われるが、実際には取調が殆ど行われていないため、被疑者は黙秘したのと同様の状態になってしまっている。それで黙秘権と本事件の関わりについて考察を行なってみる。

1.可視化要求拒絶による取調拒否
  →今回被疑者及び弁護団は可視化(最終的に録音のみでも可まで譲歩)を要請しているが、検察側は一貫して拒否しており、被疑者は取り調べに応じていない。
   これは、可視化を条件にすれば取り調べ拒否できるという事例を作ったことになり、今までにない事態と思われる。このような対応を行う被疑者が他にも出てくれば、可視化実現につながるかもしれない重要な事例である。
   しかし、マスコミはこの点を取り上げての報道はしない。情報源の検察が嫌がることはしないのだろうか。

2.今回は黙秘権行使と同様と見るべきか
  →可視化しないと取り調べに応じないと意思表示したのは弁護団より被疑者のほうが先のようである。その後弁護団から可視化要請を行った。その間雑談には応じたが、事件に関連する話も出てきたので、弁護団が可視化しないと留置場から出ないことを勧めて現在に至っている。
   これが黙秘を意図しているかというと、被疑者は勾留理由開示の法廷で正式に意見陳述もしているので、黙秘の意志がないことは明らかである(弁護側からの質問という手法で意見陳述をさせた佐藤弁護士の作戦勝ちだろう)。

3.検察の対応は適切だったか
  →以前から紹介している通り、次席検事が「(録音録画は)法制度上は可能」と記者会見で述べている。にも関わらず担当検事の意見書は「弁解録取以外の取り調べを拒否し、留置場から出房しない態度に終始した」となっている。
   これは明らかな矛盾であり、少なくとも”取調を拒否したのは検察側の意志である”ことは明確化すべきであると考える。
   そして検察は、担当検察官個人の判断として録音による取調という形を取るべきであったと思うが、それは行われず結果的に検察側が黙秘同様の状態に追い込んだと判断されても仕方ないだろう。
   なお、記者会見で次席検事は「我々は録音してない、とは言っていません」 と発言していたことも江川氏記事にある。これが何を意味するか。単に江川氏質問への反論で言ってみただけか、実際にあるのかは不明。

4.被疑者の心理
  →前述のように被疑者は意見陳述を何度も行なって、可視化されれば取り調べに応じる意志は間違いなくあると思われる。
    それで、被疑者が犯人と仮定して考えてみると、長く続く取り調べを否認で乗りきれると考えていたのだろうか。
    前科の際には取り調べ拒否とか黙秘したという話は出ていないから、通常の取調を受けていると考えられる。そして早い段階で自白している。
    一度経験しているから、乗りきれると考えるか。或いは逆に取調の厳しさや巧さなども知っているだろうから逃げ切れないと考えるか。
    否認し通せると考えたとしたら、相当な度胸であることは間違いない。 
    従来の他の事件でも全面否認する場合は、完全黙秘する対応がある。検察側が突きつけてくる証拠に、反論したり上手くかわし続けることは相当な困難を伴うと思われる。
    特に今回は痕跡や検索履歴などまで含めると数多くの証拠があるようなので、なおさらである。(被疑者が証拠が多いと考えてなかったという可能性はありえるが)
    被疑者がそんなに度胸良く否認の決意をしていたのかなど、もし犯人だとすると色々矛盾もあるので心理面は別途考察してみたい。

5.公判での被告人質問
  →公判になると公開になるので可視化したのと同じになるから、被疑者も検察官の質問に答えることになる。
    検察側はこの時を待っている事も考えられる。しかし、公判前整理手続で証拠調べ請求されなかった証拠は基本的に新たに持ち出せないので、隠し玉も難しくなる。
    また、実際には10月まで公判前整理手続が予定されていて、初公判が何時になるかは皆目わからない状況である。
    対立する論点が多くて争点整理も10月で終わる保証はなく、整理手続がそれ以降も続くか、或いは争点整理が充分でないまま公判に入って時間がかかることも考えられる。
    そうなると決定的証拠を示せないということで検察側が心象的に不利となる可能性がある。検察側もそれはわかると思うので、どう出てくるか。
   なお、公判前整理手続で被疑者出席も可能であるが、検察側から質問が行われることは無いと思われる(質問されそうな場合は出席しなければいいだけだから)。

以上であるが、明日は当方が検察側対応のもう一つの問題と考えている起訴の際の「訴因」に関して考察してみたい。