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検証報告検証11 「アーチタイのミステリー」

これまで示してきたように基本設計ではアーチタイは無かったが、実施設計に移行してからは昨日記事のようにアーチタイを含んだ図面が何種類か登場している。では実施設計が全体的にアーチタイ付きで進んで、最終的にもアーチタイ付きで確実に設計完了していたかというと、そうとも言い切れないことが分かって来た。
実施設計で採用されたECI方式でゼネコンが入るスタートであった入札公示と、(後で白紙化されたが)実施設計結果が了承された第6回有識者会議の状況を検証してみる。
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(1)入札公示(2014年8月18日)
独自情報になるが、入札公示時にはアーチタイが含まれた図面や説明書などは出されておらず、設計説明用の「設計図書」として配布されたのは5月28日第5回有識者会議で使われた基本設計書の概要版だった。公式には「アーチタイ無し」でスタートしていたことになる。
設計JV・ZHAとも実施設計正式契約は8月だったが、実際には基本設計終了後の6月から実施設計開始したとヒアリングで言っている。それで入札公示までの間にアーチタイが追加されたのかと思えたが、入札公示時に基本設計書のままだと、いつアーチタイが追加されたのか不明になる。それでありながら公示翌日にケンプラッツ(日経アーキテクチャ)がアーチタイ入りの図を記事に載せたという事実も有る。また国交省資料に載っているということは公式書類になっている。アーチタイがどのような経緯で追加されたか、有識者会議には変更報告されなかったが承認はどのレベルで行われたのか、いつ公式資料になったのか、などが謎となる。

(2)第6回有識者会議(2015年7月7日)
工費の高騰と乱高下に対する批判の高まりの中、計画通り実施設計を了承し着工に移行するための会議として行われ配布資料は以下だった。
イメージ 1

注目すべきは、基本設計終了時の「基本設計書」に対応するような「実施設計書」は入っておらず、代わりに1年以上前の「基本設計書」がそのまま使われている

この「主な変更点」資料(P1)「2.実施設計段階における検討」には<平成26年(2014年)5月に公表した基本設計と、今回示している主な変更点を併せたものが最終的な設計概要となる。>と書かれている。
かなりの手抜きに思えてしまうが、これが実施設計だけでも契約金額約26億円の設計JVによる仕事結果。

それでも基本設計に対して「変更点を明示」して分かりやすくするという意図だったとするなら、まだギリギリ理解できなくもない。それについて考えてみると、まず「基本設計書」ではアーチタイは影も形もない。「主な変更点」資料の方では東西・南北断面図(P28)にアーチタイがごく簡単に入っている。これを以って「基本設計書」に対する「アーチタイ追加」の変更明示とするのだろうか。しかし、下図を見ていただければ分かるようにアーチタイの部分に追加したことを示す説明などは無い。また、この図だけ見ていればまだ気付きやすいが、全30頁中の一枚の図面のごく一部になる。

イメージ 2

更にもっと根本的に考えてみると、「基本設計」のスタンド構造説明で「屋根の常時荷重・地震荷重・風荷重等を支持」と書かれているのに対し、「実施設計」ではアーチタイ追加により「キールアーチは自立し屋根を支持する」構造に変わったと想定される。コンペ案コンセプトへの再転換とも言えるが、アーチタイはコンペ案で採用されておらず基礎構造の大変更。
それにも係わらず「主な変更点」資料には変更意図やアーチタイの役割等に関する説明は全く無い。これほどの矛盾かつ手抜きの資料が国家プロジェクトの着工了承会議に出されていた。
支払った費用と比しても余りに酷すぎて呆れるが、これが「ZHA・日建設計」や「ザハ案推し」の方々が云う所の「2年間の蓄積」の結果になる。

他にも同資料でアーチタイが消えているような箇所があるのは工事工程の説明。
3.段階的整備について工期について」(P12)で、2015年10月から「土工事」が始まるスケジュールが示されている。屋根躯体工事の方は2017年4月から。
イメージ 3

アーチタイはスタジアム地下階の更に下だから一番最初の方の工事になるが、上図で「土工事」に入るのだろうか。しかし、アーチタイは長さ約370mもの構造物だから、その設置工事は「土工事」とは呼ばず別ラインにするのではないか。そうしないと工程表から実際の手順が把握できない。
また大成建設ヒアリングで<スタンド工区から工事が始まって、途中で屋根がメインになり、・・・>と述べている。アーチタイという重要工事がスタンド工区工事の前に必要なことなど認識していなかったように思える。
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入札公示と第6回有識者会議は今のところ以上だが、「アーチタイ追加」が何故か明確になっていない状況はお分かり頂けたと思う。
その後に出されたZHAビデオではキールアーチの工期メリットに関して以下のように主張している。
私達のこの考え方によって屋根がスタンドから支えられ、その順序でしか施工ができない案に比べて約3ヶ月工期を短縮する効果があると確信しています。この工期短縮は既に決められた竣工日に対してとても有効でコストを抑える効果もあると考えます。
この利点の検討は先の技術協力者業務で実現することが出来ませんでしたが、新しい整備計画の入札では再検討することが可能です。

利点主張の方はともかく、「実施設計で施工に関してゼネコンとの検討が出来なかった」という趣旨と思われる説明がある。これではアーチタイの取り扱いもZHAとゼネコン間では検討されなかった可能性が出てくる。
またZHA声明文ではもっとハッキリと<我々は施工者と協働することを禁じられ更に見積りが不必要に高くなり完成が遅れる危険性を高めることとなりました.>となっていて、協働を「禁じられ」と云う言葉まで出ている。
大成建設ヒアリングにも<ザハ・ハディド事務所とのやり取りは特に無かった>となっている。ただし、こちらは「禁じられた」というようなニュアンスは感じられないように思う。

このような不可解な経過があった上に「検証委員会の報告書とヒアリング結果に一言もアーチタイが出てこない」という事実が加わる。

実施設計で一体何があったのか。アーチタイはどのような経過で追加されたのか、具体的設計まで行われたのか、アーチタイの工期と工費はどれぐらいだったのか、それは見積りに入っていたのか、ヒアリングでアーチタイの話が誰からも出ないのは皆知らないのか、ZHAとゼネコンのやり取りはなぜ無かった(禁じられた?)のか等々。
ザハ案が「建てられたか建てられなかったか」という根本問題に直結する大きなミステリーが存在し、未だに謎のまま。(追記の方で憶測は書いてみる)

繰り返しになるが「2年間の蓄積」がこの程度。今後もまだ「ザハ案推し」の主張をされようとする方は、このような状況を踏まえられた方が良いと思える。
明日以降は、由利氏記事と突き合わせて更にゼネコン参加後の状況を見ていく予定。

以上
[追記]
ZHAがゼネコンと協働できなかったことを示す証は、昨日記事No6のようにビデオで「アーチタイ付きでの並行工事手順と(ZHAが考える)メリットを堂々と説明している」ことにもありそう。
逆にゼネコン側はヒアリングで並行工事の難しさを語っている。
上下に分けると、施工上の安全という観点から非常に配慮が必要であると感じていた。>(大成)
<屋根工区もスタンド工区も地面があって初めてできるところがかなりあり、日本に何台かしかない重機を使ってやらないといけないので、それぞれの工区でどのように施工するかを調整していくのに、時間がかかるところはある。>(竹中)

これではゼネコンと協働しなかったからこそ、ZHAは自信を持ってメリットだけ主張できたと思える。では何故ZHAがゼネコンと協働できなかったのか、一つの憶測を書いてみる。
仮に日建設計がZHAには「アーチタイでやっている」と云うことにして、ゼネコンには「アーチタイはなるべく見せない」というように対応を分けていたら、そのような状態になるかも知れない。つまり急遽追加で具体的検討や設計が出来ていないアーチタイをゼネコンには積極的に知らせなかった。
ただし、ノーベル賞につながったスーパーカミオカンデにも重要な役割で参加した立派な会社が分断工作のようなことをしていたとは考えにくいし、あのまま進んでいれば幾ら隠しても結局アーチタイの設計は最終的に問題になった。だが今のところ説明がつくのはこれぐらい(JSCはアーチタイ追加を隠す必要は無いだろう)。

なお、アーチタイの謎を解く一つの方法は、日建設計がZHAと組んで新コンペ参加に表明したプレスリリースの中にあると思う。
設計の成果は4,000 枚を超える実施設計図にまとめ、技術的には建設に着手できる内容となっています。
今回の公募に応えるための最も有効な方法は、この2 年間に設計者が蓄積してきた知見と経験を最大限
に活用することだと確信します。>

4000枚超の図面の中にアーチタイの詳細設計図面は有るのだろうか。「建設に着手出来る内容」と言ってるのだから、着手可能なアーチタイ図面が有るはず。果たして実態はどうか。
普通に考えるならアーチタイの設計が十分出来ていれば、成果として「主な変更点」に理由説明付きで載せる。しかし実際は説明全く抜きに全体図面の一部としてごく簡単に載せているだけなので、推して知るべしか。
なお、「この2年間に設計者が蓄積してきた・・・」という下りは、本文で矛盾を示したように、もはや「冗談」レベル。

日建設計は追求の甘い検証委員会を乗り切ってOKと考えているのかも知れない。しかし国民の資金が使われる事業の設計を担当したのだから、責任を果たすためには自らも検証して公表すべき。それが立派な会社の伝統を守ることにもつながると思う。
また検証委員会の活動は余りにも期間が短すぎた。政府は特に設計経過を再検証すべき。少なくとも約26億円も支払った設計JVの実施設計は矛盾と謎が多すぎる。

追記以上