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被疑者自身による弁護(アリバイ証明)

先週は金曜日に第2回公判前整理手続があり、7月10日(水)までに「犯人性の主張を記した書面」提出、7月18日(木)に「第3回公判前整理手続」が決まったことが江川氏のツイッターで分かった。
しかし、それまでは検察側は捜査中を盾に犯人性の証明を出さない対応を継続するようである。
7月18日というと後1ヶ月近くある。被疑者が週刊現代に出ていた自筆文章で「ラーゲリ」(収容所)と呼んでいた生活がまだまだ続いてしまう。

また、先週以下に再引用する産経新聞の記事を見つけたことは大きな驚きであった。
”派遣先会社で遠隔操作か 勤務時間中?匿名化ソフト使用の形跡” 2013.2.11 15:27
「捜査関係者によると、殺害予告は昨年8月9日午前10時40分ごろ、トーアを使って愛知県内の会社のPCが遠隔操作されて書き込まれた。被疑者の派遣先のPCにも同じ時間帯にトーアが使用された形跡があり、被疑者も社内で勤務中だったとみられる。」

トーアを使用すると発信者IPが隠蔽されるので接続履歴(以下アクセスログ)があっても犯人特定の役には立たないと考える向きがある。しかし、当方はトーアによるアクセスは発信元からの最初の発信先が特有のIP(トーアのエントリIP・・・毎度変わるが特有なことは変わらない)であるため判定可能で、そのログが残っていて遠隔操作時間帯にトーアアクセスがあれば大きな証拠になると主張してきた(5月25日26日記事など)。これは逆に云えば犯行時間帯にトーアのアクセスが無ければそのPCからの遠隔操作はないという証明になる。

それで何が驚きかということ、捜査本部は当方と同じ考えを持っていたことが、この新聞記事から推測できるのである。
なお、監視カメラの記事の例で新聞記事の信憑性を検証したが、あれも監視カメラ自体は「全周タイプで高画質」というのは事実と合っていて、それが実際にどう使われているかの確認がなかったというものである。大ぐくりな部分は合っているので、この記事も「トーアによるアクセスログが遠隔操作の証明になると警察が考えていた」というところは信憑性有りとして捉えることにする。

もう一点、アクセスログで重要なことは「警察は愛知のPCの遠隔操作がリアルタイムアクセスであると考えていた」ということである。(したらば掲示板経由やTor経由による遅延があるので完全にはリアルタイムではないが、分かりやすくするために以降も含めてリアルタイムアクセス、又はリアルタイムと表現する)
これに関しても、リアルタイムアクセスとは言い切れないと考える方々がおられる。掲示板に命令を書き込んで置くのだから、遠隔操作される側のPCが電源入ってなかった場合は、電源がONされてから掲示板見に行ってから動くのでタイムラグが生じる可能性があるという考え方である。しかし、当方はブログの最初の方の記事で、今回のトロイによるアクセスはリアルタイムと考えるべきという主張を行い、検証も実施してリアルタイムを確信している。
ただ、それでもまだリアルタイムでない可能性を考えられておられる方がいるかもしれないが、警察のほうがリアルタイムと考えていると推測できる記事があったわけである。

しかも警察・検察はトロイの実行ファイルもソースコードも操作説明書さえも犯人から受け取っているので、今回のトロイの動作がリアルタイムかどうか検証できるのである。当然それをやった上でリアルタイムと考えているということになる。それでもまだリアルタイムと決めたくないようであれば決める必要もない。要するに、リアルタイムであると仮定すればいいのである。

リアルタイムのことをなぜ強調するかというと、リアルタイムと仮定してアリバイを検討すれば、被疑者の白黒が判定できるからである。上記産経新聞の記事には以下のようにある。
「真犯人は犯行声明で、同人誌イベントを含む13件の犯行予告を行ったと説明。記録媒体内に残された文書では「全てトーアで書き込んだ」としていた。派遣先のPCには他にも複数回トーアが使用された形跡があり、合同捜査本部は被疑者が真犯人で、このPCから一連の犯行予告が書き込まれたとみている。」

13件も犯行があってそれを派遣先PCからトーアを使用して行なったと警察は見ているわけである。それ以外に犯人からのメール4通もあるし、代行依頼のレスも複数有る。これらも遅延アクセスすることは難しいので、リアルタイムと仮定しておけば良い。遠隔操作やメールの時間帯は、犯行予告書込やメール受信の時刻で正確に判っているのだから、勾留されていて時間がたっぷり有る被疑者に各件の日時を見て貰い、アリバイが成立するものがないかじっくり考えてもらえばいいのである。これが本日の表題の「被疑者自身による弁護」の意味である。

例えば、この時間帯は会議をしていたのではないか、とか、この時間だと会社を出て電車や地下鉄に乗ってたはず、というようなことを思い出せる日時も有るだろう。また、元旦メールの少し前は紅白歌合戦を見てたと云う話もあるので、その辺の詳細を思い出してトーアによるメールは出せない状態だったというようなアリバイ証明が出来ないか、本人に考えてもらえば良いのである。
なお、弁護側は「三重の犯行(アンカー付きでレスしている)、大阪のPCによるJALへの書込み(飛行機が飛んでから書き込んでいる)などから考えて、トロイのアクセスはリアルタイムと考えるのが合理的である」と主張して被疑者から引き出したアリバイを主張すれば良い。検察がそのアリバイが成立しないと考えるなら、遅延手段を具体的に立証してアリバイ崩しを行うのは検察の役目である。よって、被疑者にはリアルタイムであると仮定してアリバイを思い出してもらえば良い。(アリバイ立証には当時の派遣先などの協力も依頼する)

沢山の遠隔操作やメールなどのアクセスがあるから、被疑者が犯人でなければアリバイを立証出来る件が出てくる可能性は高いと思われる。一つ、二つでも確実なアリバイが出てくれば展開は全く変わってくる。ただ本来こういうことはもっと前から出来た。なぜやれてなかったか考えてみたが、一つは検察側がこれほど犯人性の証拠開示を遅らせることは想定外で、それが開示されてから反論やアリバイ証明実施を考えていたということは有るだろう。

しかし、もう一つ要因があるのではないか。それは被疑者本人への事件の説明である。特に技術者である被疑者に向けた本事件の技術的な説明が十分行われているだろうか。被疑者は任意聴取もなくいきなり逮捕された形になり、その後は弁護士との接見以外は外部から遮断された生活が続いている。外にいる我々からは想像できないぐらいに事件の情報を持っていないのではないか。しかも弁護団は当然文系の方々なので技術的な詳細の話はしないだろうし、被疑者もそういう事情は分かるからあえて聞かない。
こういうことで「犯行時間帯にトーアによるアクセスログがなければ遠隔操作が行われたことにならない」とか、「被疑者が席にいないなどで犯行時間帯に自分のPCを操作できない状態であったことが証明出来たら、無実が立証できる」というような手法があることが被疑者に正確に伝わっておらず、被疑者は自らアリバイ証明できることも気が付いていないのではないか。

それで冒頭の記述とも絡んでくるのだが、7月18日の公判前整理手続まで行けば検察がギブアップする可能性はあるだろうから、それまで今のまま待つかという事である。それに対して、リアルタイムアクセスを仮定して、先手を打ってアリバイを立証してマスコミに配信するなどすれば、被疑者無実を一般に訴えられて冤罪阻止の世論形成ができるのではないか(裁判所や検察も世論の影響は受ける)。被疑者も単なるラーゲリ生活より、アリバイ証明で張り合いが出てくるだろう。
また、7月18日ぐらいで決着付けば良いが、検察が何らかの方法でもっとその先まで粘ろうとする場合には、先手を打ったアリバイ証明公表は大きな歯止めになるだろう。

ここまで考えて来て、当方が僭越ながら事件を技術的に整理して、「このようにすればアリバイ証明が出来る」というようなことを書いた手紙でも被疑者宛に出そうかと考えて調べてみたら、接見禁止状態では手紙も届かないそうである。また接見禁止が解けても、事件のことを記したような手紙は無理そうだと分かった。折角被疑者によるアリバイ証明という有効な作戦が有りそうなのに、実現するには接見禁止などの壁が高そうである。

以上