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ハイジャック防止法適用に関して

本事件はハイジャック防止適用での起訴が行われており、
刑期が最長10年ということがよく語られる。
しかし、本当にそんな長期刑が求刑される可能性があるのかどうか考察してみた。

今回の犯行に該当する条項が第四条としてある。
ただし、正式名称に「強取」と入っているように、昭和45年のよど号ハイジャック事件
機に作られた法律で、ハイジャック行為への処罰強化を主に意図した内容になっている。 

それを体現しているのが以下の第一条の方。
”第一条  暴行若しくは脅迫を用い、又はその他の方法により人を抵抗不能の状態に陥れて、
 航行中の航空機を強取し、又はほしいままにその運航を支配した者は、
 無期又は七年以上の懲役に処する。”  (第二条と三条は第一条の関連記述)

第四条の方はそれに関連した行為について規定されている。
”第四条  偽計又は威力を用いて、航行中の航空機の針路を変更させ、
 その他その正常な運航を阻害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。”

今回は強取ではないので、第四条の適用になるのは間違いないところ。
しかし、第四条では「一年以上十年以下」の懲役となっている所に注目。
最低限の刑期は一年からなのである。
それに対してハイジャック防止法がなければ適用されると思われる
「威力又は偽計による業務妨害」の罰則の懲役部分は「三年以下」である。

つまり、ハイジャック防止法でも業務妨害罪より短い懲役も条文的には可能。
更に考えると、ハイジャック防止法第四条による懲役上限が業務妨害罪より長いのは、
四条の中の「航行中の航空機の針路を変更させ」によるものと考えられる。
これは、よど号ハイジャックからの類推で、強取でなくとも日本の警察権が及ばない
外国に飛行機を着陸させるような行為に対して罰則を厳しくしたものと受け取れる。

今回は外国への着陸要求どころか、針路変更さえ直接要求していない。
それでは今回の適用条文はというと、四条後半の「その他その正常な運航を阻害した者」に 
なると思われ、これだと一般の業務妨害罪の規定とそう変わらないことになる。

結果的に10年求刑などありえず、普通に考えたら業務妨害罪の最高並の3年が妥当な線。
しかし、これでは業務妨害罪で起訴するのと余り変わらないから、
時折「ハイジャック防止法の適用は無理筋」などという声が出てくるのだろう。
適用したからには業務妨害罪よりは長期求刑にならざるを得ないと思われるが、
それを考慮してもハイジャック防止法での求刑は5年程度が上限ではないだろうか。
併合罪は別)

なお、航空機は特別ではないかという意見もあるであろうが、例えば新幹線は航空機より乗客は多く、
ダイヤも過密であり、犯行予告などの影響は航空機より大きいとも考えられる。
しかし、新幹線にはハイジャック防止法のような刑法の特別法はないため、同様の犯行予告に関しては
刑法の業務妨害罪の適用が予想される。
この比較を考えても、本事件でハイジャック防止法第四条の上限に近いような求刑は困難と推測される。

また、ハイジャック防止法適用に関しては以下の様な記事もあった。
"ハイジャック防止法適用 背景に米「テロとの戦い」"
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130304/crm13030400070000-n1.htm
米国との関係は重要であるが、それでも例えば国内線で同様の予告が行われた場合は
どの程度の求刑にするかという課題もあり、米国への特別配慮のしすぎは整合性が欠け、
やはり業務妨害罪を大きく超える求刑は困難ではないか。
少なくとも、ネット上で喧伝されている最長10年という数字は殆ど意味のないものであろう。