kensyou_jikenboのブログ

yahoo!ブログの同名ブログを移行しました

旧計画再検証5 「通常の設計業務が何故出来なかったのか?」

本日は、相坂氏の「JIA MAGAZINE」寄稿文2月19日記事紹介)における以下部分の考察。
<思えば白紙前夜の世論は「高過ぎる見積の縮減」であり、案の内容云々ではなく、「施工見積の精査」「規模や構造が不適なら修正」「それもダメなら発注者へ与件見直し提案」という通常の設計業務をさせれば良かったのです。

考察するにあたって、まず前提として旧計画においてはZHA関連で大きく二つの誤解が存在しているように思う。それを例えば「浅田彰」氏論考”新国立競技場をめぐって”(本年1月4日付)の記述で説明すると以下になる。
 (1)ZHAは「デザイン監修者」であって、実際の設計業務には関与していない
 (2)本来ZHAの案は幾らでも変更可能で、予算の枠内に収めることも出来たはず

(1)については当ブログで既に昨年8月から、「実際にはZHAは設計に関与していて重要な基本設計では主導していた」ということを述べてきた。相坂氏も他のツィートを見ると同見解のようである。当ブログでは証明としてJSC資料や検証委員会報告などを紹介しており、ネット上では殆ど誤解が解けてきたように思う。ただ、未だに「デザイン監修者」という認識のままの方も見かけるが、証明資料は公開されており情報収集不足と言わざるを得ない。

では(2)はどうかと云うと、これが上記相坂氏の<仕様が不適なら修正するという通常の設計業務をさせれば良かった>という見解と同趣旨になる。他にも安藤忠雄氏が同様に言っておられる。例えば昨年11月10日記事で紹介した芸術新潮」という雑誌に掲載された発言は次のようだった(ちなみに相坂氏の師匠は安藤氏とのことであるが、別個で考えて同じになったと想定)。
<”白紙撤回”は行き過ぎではなかったかと思います。コストが問題ならば、事業者と設計者と施工者で、計画を変更調整するのが当たり前の建築プロセス。>

結果的に誤解(2)については、「『通常の設計業務』・『当たり前の建築プロセス』が出来なかったのは何故か?」という点に注目すべきと考えている。当方が考える原因は単純で「通常の設計プロセスになっていなかった」と見ている。つまり、「異常なプロセス」になっていたことが考えられる。その根本は「建てられない設計」だったのではないかという見方だが、本日はプロセス面でも検証してみる。
昨年の日経アーキ10月10日号にZHA日本人スタッフU氏(当時)のインタビュー記事がある。
特集 「新国立」破綻の構図 日経アーキテクチャ2015年10月10日号
施工側との不協和音で暗転 予算を明示しない発注者に振り回された揚げ句 【ザハ事務所スタッフが語る】”
<――整備費3000億円超、工期56カ月─。実施設計が佳境に差し掛かった15年初頭、施工予定者が示したコストとスケジュールは設計側を驚かせた。ザハ・ハディド事務所は知恵を絞って減額案をJSCに提案していた。開閉式遮音装置(開閉屋根)の膜が南北の長手方向に開く構造でコストを抑えるアイデアなど、これまで私たちの目に触れなかったVE案の存在が明らかになった。
内山 実施設計を進めていた15年1月、施工予定者から整備費が3000億円かかるという試算が出た。私たちはショックを受けた。実施設計ではJSCのコスト・ターゲットが約2000億円とみており、その額に収まるよう設計していたからだ。この大きな価格の乖離をなんとか埋めなければならなかった。私たちは与条件の変更を含むVE案をJSCに提案した。
 提案の内容は「開閉屋根を中止、または五輪後の施工にしてはどうか」「デッキを削って工費を削減してはどうか」と多岐にわたった。しかし、JSCは「有識者会議で承認された基本条件を変えるのは難しい」と言うばかり。今年4月くらいまで繰り返しVE案を説明したが、施工予定者の提示する価格と大きな開きが埋まらず、交渉は難航した。
 そして5月に入ると最終的な価格の交渉はJSCの手を離れた。その後は官邸と施工予定者が直接交渉をすると聞かされた。その結果が7月7日の国立競技場将来構想有識者会議で承認された2520億円。この価格に対して設計側が積み上げた価格は2090億円だった。>

これを読むと一見ZHA側が「開閉屋根を中止、または五輪後の施工にしてはどうか」などのコストダウン提案をしたのにJSCが受け入れなかった、となって上記3氏などの見解を裏付けているように読める。だが、実際にはJSCと政府は「開閉屋根の先送り」という重大な仕様変更を実施している。つまりVE案は(実現には至らなかったが)実施されており、ZHA側の言い分とは違う。この矛盾が見逃されていると思う。更に「5月以降は官邸がゼネコンと直接交渉した」という話も非常に重要。普通はこのようなことをする訳がなく、まさしく「異常なプロセス」が発生していた。

実質的に5月以降ZHAは外されていたことになり、この時点で「ザハ案が放棄されていた」ことを意味すると思う。7月7日に有識者会議が有ったから一見ザハ案が生きていたように見えるが、実際は水面下で新コンペ検討を進めるためのカムフラージュだったのではないか。もし5月以降もザハ案が生きていたなら、監修契約があるからZHA抜きではザハ案を進められず外すことは出来なかった。外せたのはザハ案放棄を決めていたからに他ならない。加えて6月初めにはZHA外しの情報がリークされたと思われる記事もある。
新国立設計ザハ氏と契約解除へ…文科省など検討”2015年6月6日6時0分  スポーツ報知
文部科学省などがデザイン監修者としたイラク出身のザハ・ハディド氏(英在住)の事務所との契約解除を検討していることが5日、分かった。政府関係者が明らかにした。ザハ・ハディド・アーキテクツ側と設計を変更するよう交渉を行い、不調に終わった場合、契約を解除する方針だ。>

安部総理が7月17日「白紙見直し」発表時に「一ケ月ぐらい前から検討させていた」と述べたが、新聞が6月5日に解除情報を掴んだのだからだから実際にはその前から、つまり少なくとも5月にはザハ抜きでの検討が始まっていたことは確実。これは上記U氏の話と合ってくる。なお、「交渉が不調に終わったら解除」となっているが、リークをそのまま書いただけで実態は解除方針が決定済みだったと推測。

また5月以前の4月までの段階においても、「ZHAがVE案を提案してもJSCが受け付けなかった」ことは、その段階で既にZHA外しが始まっていたと見る。U氏は同インタビューで以下のことも述べている。
< ザハ・ハディド事務所がプロジェクトに関わりにくくなったのは14年秋にECI方式で選ばれた施工予定者が実施設計に加わってからだ。・・・
(ゼネコンが出した)スタンド工区と屋根工区の工期を合算すると東京五輪にも間に合わない。「工期が収まらなければコストは出せない」というのが施工予定者たちの理屈だった。この頃からプロジェクトの進行が難しくなってきた。>

ゼネコンは早くからZHA(+アラップ+日建設計)の構造設計を見限っていた可能性が高い。このことは「文芸春秋由利氏記事」で2014年12月頃の話と思われる次の記述と符合してくる。
<ザハ案では、震度7に耐えられないんじゃないか」とごく内輪の関係者の間で大騒ぎになっている」 昨冬、筆者(由利氏)の取材にこう打ち明けたのは、新国立競技場の建設事業に関わっているゼネコンの関係者だ>

更に同記事は2015年春先(多分2月)の「ゼネコンによる官邸直訴」を書いている。ゼネコンの「撤退覚悟」の行動により官邸も構造設計の根本問題を認識し、それを主導したZHA外しが始まったとすると、ZHA側の提案を受け付けなかったことの説明もついてくる。このように「由利氏記事」と現実の進行を重ね合わせると、異常なプロセスの背景が見えてくる。しかし、「由利俊太郎」は匿名のようで続報もないため、「まだ信じられない」と思う方が多くても当然。ただし、文藝春秋という伝統ある著名な雑誌が匿名を承知の上で掲載したということは、逆に「信頼できる筋から持ち込まれた情報」という推測の根拠にもなり得る。

それでも更に確実な裏付けが取れれば一番望ましいので、相坂氏とJIAの力で情報収集して検証して頂けると真相にぐっと近づけると思う。例えばJIA副会長には「山下設計」の元本社長がおられるなど、JIAは元々多くの情報を得られる立場にあって、もっと色々知っていると思われる。その分しがらみも多くなるが、そこは相坂氏など若手の方々に期待したい。

以上
[追記]
相坂氏が一度当ブログ(2016年1月18日記事)を引用して頂いていた。
----2016年1月23日相坂氏ツィート群引用開始----
<本当に。「監修者だから云々…」と悶々とされる方はこの○17と○26をお読みになっては? (当方注:17と26はヒアリング結果の日建設計とZHAで、これを読めばZHAが単なる監修者では無いことが分かるという趣旨)>
 「  ①建前…国際コンペは「監修者」を選ぶものだった
  ②実態…ZHAが選ばれたが、実質は「監修者」を越えて特に重要な基本設計では「主導者」だった
①を批判する人の殆どは、②の状況をご存じないまま批判していると想定される。」>
<ただし僕がこのブログを引いたのは、この日の記事に限り(特に後半に関して)、当事者自身が認められている事実、かつ一部の方の「疑念」が誤読され、拡散し過ぎない目的からです。(それ以上のことは語れず、"新チームを潰す"等との意図も僕には全くありません)>
----引用終了----

最後のツィートは以下のようになっている。
ただし僕がこのブログを引いたのは、この日の記事に限り(特に後半に関して)、当事者自身が認められている事実、かつ一部の方の「疑念」が誤読され、拡散し過ぎない目的からです。。(それ以上のことは語れず、"新チームを潰す"等との意図も僕には全くありません)>

この内容は当方にはピンと来ていない。まず「記事後半」は、「本文後半」なのか、あるいは「追記」なのだろうか。本文後半だと「テレグラフ紙記事」、追記だと「由利氏記事」の件になりそう。しかし、どちらにせよ相坂氏が書かれている<当事者自身が認められている事実、かつ一部の方の「疑念」>が何を指しておられるのか、現在当方には不明。また、”新チームを潰す”意図というのも内容不明。

追記以上